せっかくの外食が台無しに……
友人のA子には、幼稚園児と小学生の子どもがいます。夫が出張のある日、夕ご飯を近所の回転寿司屋で済ませることにしました。
A子の次男は冗談が苦手で、相手が褒めるつもりで言ったことも、悪口だと捉えてしまうことがありました。
食事中に長男が、回転寿司屋のタブレットで流れているCMの俳優を指差し「次男に似ているね」とポロッと言ったのです。
すると、次男は「ぼくの悪口を言った」と怒り出し、手前のお皿やコップを払いのけてしまいました。A子は周りのお客さんに謝りながら、急いでお皿とコップを拾い、床をふきました。
見知らぬ老夫婦に助けられる
A子はあまりの惨めさに「片付けたらすぐに帰ろう……とにかくこの場から早く立ち去りたい」という気持ちでいっぱいでした。
すると、A子たちの席から3つほど離れたテーブルにいた見知らぬ老夫婦が立ち上がり「ここは私たちに任せて。お母さんは子どもちゃんのところに行ってあげてね」と声をかけてくれたのです。
A子は「ありがとうございます」とご夫婦にお礼を言った瞬間、緊張の糸が切れて号泣してしまいました。
帰り際、老夫婦から呼び止められて……
ご夫婦は手際よくお皿を片付け、床もきれいに拭いてくれました。A子が急いで子どもたちにお寿司を食べさせ、お店を出ようとした時です。
ご夫婦から「これ、お家で食べてママも元気出してね」とお持ち帰り用のケーキを渡されたのです。
このときA子は喜びよりも驚きの方が大きく「えっ……すみません」と小さな声で言ったまま呆然と立ち尽くします。
そんなA子を見て、ご夫婦はニコッと笑ってその場を立ち去りました。
一生懸命に子育てをしていると、知らず知らずのうちに身も心も疲れ切ってしまうことってありますよね。そんなときの優しさは、私たちの心にグッと沁みます。
この出来事を通じて、A子は「世の中にはこんなに素晴らしい人がいる」という希望を再確認したそうです。同時に、いつか自分も、困っている誰かにそっと手を差し伸べられるような、温かい人でありたいと強く感じたと言います。
ftnコラムニスト:広田あや子