「人の口に戸は建てられぬ」と言いますが、人から聞いた話を他の人にペラペラ喋るだけでなく、誇張して広める人もいます。今回は、そんなスピーカーママ友に悩まされた私の友人Eさんのお話です。
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急に近づいてきたママ友

Eさんは、結婚してすぐ義実家に同居。当時幼稚園に通う子がいて、Eさんがパートに出ている時はお姑さんが送り迎えをしてくれていました。

ある日Eさんがパートから帰ってくると、お姑さんが子ども連れの女性を家に上げていました。その女性は、Eさんの子どもと同じクラスの子のお母さんであるTさん。あまり話したことはないけれど、ちょっとした噂があって幼稚園では有名な人でした。
「あ、お邪魔してます」
Tさんは、にっこり笑ってEさんに挨拶しました。
「今日幼稚園でお話してね、とっても気が合ったからお招きしたのよ」
お姑さんはたくさんのお茶菓子を用意して、Tさんをもてなしていました。
「素敵なお姑さんで羨ましいわ」
Tさんとお姑さんはすっかり仲が良くなったようで、それからお姑さんが迎えに行った日は必ずTさんを家に招くようになりました。

お姑さんの愚痴を聞き出され……

ある日、幼稚園の行事でTさんと顔を合わせたEさん。実は少しTさんのことが苦手だったEさんは、会釈だけしてその場を離れようとしましたが、Tさんにがしっと腕を掴まれてしまいました。
「いつもお邪魔してごめんなさいね」
「いえいえ……」
「本当に優しいお姑さんよね。でも同居ってストレスたまるでしょ?」
「いや、まあ……」
「何でも話してよ、ねえ」
TさんはEさんにグイグイと迫り、お姑さんの愚痴を聞き出そうとしました。
「まあ、色々ありますよ。じゃあ私はこれで」
Eさんはそう言ってTさんの手をほどき、立ち去りました。

翌日、パートから戻ってきたEさんを待ち構えていたのは、真っ赤な顔をしたお姑さんでした。どうやらさっきまでTさんがいたらしく、応接間にはお菓子の包み紙や子どもの絵本が散乱しています。
「Eさんあなた、私の悪口言ってたらしいわね!?」
「……え? 何のことですか」
「Tさんに、姑が色々うるさくてストレスがたまるって言ったんでしょ?」
「いや、言ってないですけど……」
TさんはEさんが発した「色々」という言葉を誇張して姑に伝えたようです。Eさんは困り果て、とりあえずそのようなことは言っていないことだけは理解してもらえるよう説明しました。

Tさんはスピーカーママ

実はTさん、幼稚園では有名なスピーカーママ。人から聞いた噂話を10倍くらいにして伝えることで、他のママ友からは敬遠されていたのです。
「まあいいわ、何か誤解があったということね」
お姑さんの怒りはなんとか収まり、ほっとしたEさん。しかし、今度Tさんに何か聞かれても何も答えないようにしようと決めました。

数日後、Eさんが幼稚園に子どもを連れて行くと、他の園児のママたちがざわざわと何か話し合っているのに気づきました。
「なんかあったの? 」
仲の良いママ友に聞いてみると、衝撃の発言が。
「Tさんっていたじゃない?あの人、一家で夜逃げしたらしいの」
「よ、夜逃げ? 」
「そう。何人かあの人にお金貸してた人もいるらしくって、大騒ぎよ」
「あらら……」
そのときふと、Eさんはお姑さんのことを思い出しました。

「お義母さん、もしかしてTさんにお金貸してませんでしたか? 」
家に帰るなり、Eさんは慌ててお姑さんに聞きました。
「私のお金なんだから、あなたには関係ないでしょ」
少し慌てた様子でお姑さんが答えました。
「関係ないかもしれませんけど、一応お伝えしとこうと思って。そのお金、多分返ってこないですよ!」
「え!?」
Eさんが夜逃げの件を伝えると、お姑さんはがっくりと肩を落としました。どうやらかなりの大金を、Tさんに貸していたようです。

「もう誰も信じられないわ……」
それ以降、お姑さんはすっかり人間不信になり、ママ友を家に連れてくることはなくなったとのこと。急に親し気にしてくる人間には、人の家庭をかき乱そうとしたり、お金目当てだったりと、何か裏があるということですね。

ftnコラムニスト:緑子