水道代に異変
Sさんは当時念願のマイホームを建て、引っ越したばかり。マイホームを手に入れたら庭で家庭菜園やガーデニングをするのが楽しみだったSさんは、家の外にも水道を引き、立水栓を設置してそこから庭に水を撒けるようにしていました。
引っ越しの荷物も無事に片付き、少しずつ庭にも手を入れていたSさん。まだ春先だったので野菜の苗を植えるには早く、あたたかくなったらあれをしよう、これをしようと楽しみにしていました。
しかしSさんが引っ越してから3か月後、水道代の請求書を見てSさんは驚きました。暮らしぶりは変わっていないはずなのに、先月の水道代が1.5倍ほどに跳ね上がっていたのです。
「なんでだろう……どこか水漏れしてるのかな？ 新築なのに……」
慌てて水道業者に来てもらい、水漏れをチェックしてもらいましたがどこにも異常はありません。
「水道、どうかしたの？」
お隣りの家の奥さんが、水道業者が庭の水道をチェックしているのを見て尋ねました。
「はい、ちょっとおかしいみたいで……」
「大変ね、うちも後で見てもらおうかしら」
そんな話をしているうちにチェックが終わり、やはり庭の水道にも異常は見当たりませんでした。
夜中に謎の水音
「なんで水道代がこんなに上がっちゃったんだろう？｣
Sさんは仕事から帰ってきた旦那さんに相談をしました。
「これは高いな……うちは2人しかいないのに、4人家族分くらいの水道代だね」
「そうなの、でもどこも水漏れはしてないって」
「ん？ そういえば……」
旦那さんは、最近夜中にトイレに行くことが多く、その時に外から水の音が聞こえたことがあると言い出しました。
「外から？ やっぱり原因は庭の水道かしら」
「そうかもしれないね、今度また水音がしたら庭を見てみるよ」
「私もちょくちょく見るようにするわ」
そしてその夜、Sさんは夜中まで起きていることにしました。
夜中の3時。頑張って眠気を堪えているSさんの耳に、ぴちゃぴちゃという水音と、蛇口をひねる音が聞こえました。
「ん……？」
部屋の明かりはつけず、Sさんはそっと2階の窓から庭の水道を見下ろしました。
「え、何あれ……あなたちょっと起きて！」
Sさんは庭の水道に、明らかな違和感を覚えました。いつもSさんは庭の水道を使ったあとはホースを外しているのですが、今見てみると明らかに庭の水道に見知らぬホースが繋げられているのです。
「あれ、どこに繋がってるんだろう」
眠い目をこすって起きてきた旦那さんは、懐中電灯を手にそっと庭に出て、ホースを照らしました。
「え、お隣りじゃん！」
なんと庭の水道につけられたホースはそのまま隣りの家の中に引き込まれていたのでした。
ささやかな対策
Sさんは翌日すぐにホームセンターに行き、庭の水道に鍵をつけました。
「あら、どうしたの？」
庭で洗濯物を干していたお隣さんがまた話しかけてきます。
「近所の子どもにイタズラされてるかもしれないんで、鍵をつけてみたんです」
「そうなの……」
お隣りさんはそう言って家の中に入っていきました。
さすがにお隣りさんに水を盗まないでくださいと言いに行くと角が立つので、Sさんはただ鍵をつけることしかできませんでした。
しかしその日から謎の水音も止み、翌月に来た水道代の請求額は以前と同じくらいに戻っていたので、誰かに不正に水道を使われていたことは間違いありません。
「あんな夜中に人んちの庭に忍び込んで水を引き込んで、一体何に使っていたのかわからないのが怖い」とSさんは言いました。
お隣りの奥さんはとっても穏やかで上品な人なので、今でもご近所付き合いは続いていますが、相変わらず庭の水道には使用時以外は鍵をかけているとのことです。
ftnコラムニスト：緑子