家庭内別居という言葉につられて
Kさんはバツイチ独身。1人暮らしの寂しさを紛らわせるため、友人に誘われて大人の飲み会サークルに入会することにしました。
そのサークルには30代以上の男女が15人ほど所属していて、たまに集まって飲み会をするというのが活動内容。既婚者もバツイチも未婚も入り混じっていて、何でも話せる陽気な仲間たちの集まりでした。
そんなサークルで、Kさんにとても優しく接してくれる男性が一人。彼は既婚者でしたが、彼曰く「家庭内別居」で、一緒に暮らしてはいるけれど夫婦仲は冷え切っているとのこと。
ある日の飲み会で酔いつぶれてしまったKさんを彼が部屋まで送ってくれたことをきっかけに、Kさんと彼との不倫関係が始まりました。
Kさんはすぐに彼に夢中になり、サークルの他のメンバーには決してバレないよう気を遣いながら2人で頻繁に会うようになりました。
しかし彼は既婚者なので、部屋に泊ることなく帰ってしまいます。どうせ家庭内別居なら、本当に別居して欲しいと彼に頼むこともありましたが、彼は「子どもが成人するまで待って」と言うばかりなのでした。
誘われていないホームパーティー
そんなある日、サークルのメンバーからKさんに連絡がありました。
「〇〇さん(彼)ちのホームパーティー行くなら途中で合流して、駅から一緒に行かない?」
Kさんの頭の中は? マークだらけになりました。
「ホームパーティーあるの? 私初耳だよ」
「え、そうなの? 連絡漏れかな、聞いといて良かったよー、一緒に行こ!」
「……うん、一緒に行く!」
家庭内別居なのにホームパーティーはするのか、という疑問はありましたが、一度彼の家族を見てみたいという気持ちから、Kさんは参加することにしました。
どうやら彼の家でのホームパーティーは毎年行われているらしく、新しく入ったKさんだけがそれを聞かされていなかったようでした。きっとわざと自分を誘わなかったのだろうとKさんは思いました。
ホームパーティー当日
そして彼には何も伝えないまま、やってきたホームパーティー当日。Kさんは他のサークルメンバーと駅で合流し、沢山のお酒を手土産に彼の家へ。
「わあ、素敵なおうち……」
彼の家は閑静な住宅街にある一軒家で、広い庭にはバーベキューの準備がされていました。インターホンを押すと、キャッキャとはしゃぐ声と共に2人の小さな子供たちと真っ白で大きな犬が飛び出してきます。
「いらっしゃいませ。あの人は今ちょっと買い出しに行ってて……」
そう言いながらKさんたちを迎えたのは、上品な美人という言葉がふさわしい奥様でした。
「あ、みんなもう来てたんだ……!」
買い出しから帰ってきた彼が、メンバーの中にKさんを見つけて一瞬焦ったような表情を浮かべました。しかしKさんは素知らぬ顔で奥様や子どもたちに初めましての挨拶をしました。
「もうー、これじゃない方って言ったでしょ!」
彼が買ってきたものが頼んだものと違ったのか、奥様が彼の額をコツンと叩きます。
「イチャイチャしちゃって! 相変わらず仲が良いんだからー 」
「ほんとおしどり夫婦だよなあ」
サークルのメンバーが口々に彼と奥様の仲の良さを褒め、その度にKさんの胸はズキズキと痛みました。
「めっちゃ仲いいじゃん……」
Kさんはホームパーティーの間中彼と奥様の仲の良さを見せつけられ、げんなりとして帰路につきました。
家に着くのとほぼ同時にKさんのスマホに彼からの着信がありました。
「もしもし……」
「あ、Kちゃん……なんか今日、ごめんね」
「ううん、私が行きたいって言ったから」
「そうなんだ……」
彼と話しながらKさんは、気持ちがどんどん冷めていくのを感じました。
「ていうか何が家庭内別居じゃ! ラブラブやんけ!!! 」
大きな声でそう言って、Kさんは電話を切りました。それ以降Kさんは彼との連絡を断ち、サークルの飲み会にも参加していないとのこと。
家庭内別居という言葉をそのまま信じてはいけませんね。
ftnコラムニスト:緑子