不妊治療中は仲の良い友人の妊娠の知らせにも複雑な気持ちになってしまいます。もしそれが血を分けた姉妹の間柄でも同じです。今回は不妊治療中にいきなり妹の子どもを託された私の同僚、Oさんのお話です。
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妹の妊娠

Oさんは当時、結婚5年目でした。子どもがなかなか授からず、義両親に早く孫の顔を見せるようせっつかれ、不妊治療のための病院に通い始めたばかり。

旦那さんはひとつ年下で、Oさんの実の妹の会社の上司を紹介してもらったのが出会いでした。Oさんと妹は両親を亡くして今はたった2人だけの血を分けた家族です。

不妊治療中でホルモンバランスが乱れ、落ち込みがちになっているOさんは妹が週末に遊びに来て、家事を手伝ってくれたり買い物に付き合ってくれたりするのをとても心強く、楽しみにしていました。

そんなある日、妹が突然Oさんに言いました。
「あのねお姉ちゃん。私、赤ちゃんできちゃった」
「え……!? 」
今まで彼氏がいるという話など聞いたこともないのに、突然の妊娠報告に驚くOさん。
「付き合ってる人がいたのね、結婚するの? 」
「ううん、ひとりで産むの」
「どうして? お相手の人にはちゃんと話したの? 」
「実は……不倫なの」
思わず倒れそうになるOさん。妹はケロッとした顔で言いました。
「私の方が先に妊娠しちゃってごめんね! でも産むから! 」
それだけ言って帰って行く妹を、Oさんは止めませんでした。

玄関のドアを開けたら……

その後妹は臨月になるまで仕事を続け、産休を取らずに退職したとOさんは同じ会社の旦那さんから聞きました。

いまだOさんには子どもが授からないままで、そんな状態で妹のお腹が大きくなっていくのを見るのがつらく、Oさんは妹に全く会っていなかったのです。

「もうすぐね……」
カレンダーを見ながらため息をつくOさん。そろそろ妹の子どもの出産予定日でした。一体妹はどうしているのか、会社での様子は旦那さんに聞く限りでは順調であったようでした。

「もうすぐだな……」
予定日が近づくにつれて旦那さんが妙にソワソワしていて、やはり元上司だし義理の兄だから気になるのかな、とOさんは何の疑問も抱いていませんでした。

そしてその半月後、突然Oさんの家のインターホンが鳴りました。
「はい? 」
家の中から応答しても、なんの返事もありません。Oさんは不思議に思って外に出てみました。すると走り去る女性の後ろ姿が見えました。そして足元にはとんでもないものが置いてあったのです。

「え……どういうこと? 」
玄関先に置いてあったのは丸々としたかわいい赤ちゃんが寝かされているベビークーハンでした。そして封筒に入った手紙のようなものも一緒に置いてあります。

Oさんは慌ててクーハンごと赤ちゃんを玄関の中に入れ、封筒を開けてみました。するとそこには、「お姉ちゃんごめんね。〇〇さん(Oさんの旦那さん)との赤ちゃんです。大事に育ててあげてください」と妹の名前と共に書いてあったのです。

旦那を問い詰めると

Oさんは慌てて旦那さんに連絡し、すぐに帰ってくるよう言いました。

「ねえ、一体どういうことなの? 」
「ああ、実は……」
旦那さんは言いにくそうに話し始めました。実は旦那さんと妹は、Oさんと結婚する前から身体の関係があったこと。そしてそれは妹が妊娠するまで続いていたこと。
驚くべきことに、旦那さんは妹の子を引き取り、自分とOさんとの子として育てたいがために妹に子どもを産ませたと言い出したのです。
「だって母さんがさ、早く孫の顔見せろって言うから……この際妹の子でもいいって」
「じゃあお義母さんも知ってたの!? ひどい……この赤ちゃんどうするのよ? 私が育てなきゃいけないの? 」
「頼むよ……いいだろ? 全然血が繋がってないワケじゃないしさ」
Oさんは絶句。そして旦那さんに、妹にすぐ帰ってくるよう連絡してくれと言いました。どうやら妹は旦那さんの両親にお金を貰い、少し離れたところに引っ越したようでした。

「妹が帰ってくるまで面倒は見るわ。でもずっと育てるのは無理よ。離婚しましょ」
Oさんは赤ちゃんを抱き上げて言いました。どことなく妹の面影のある、かわいい赤ちゃんだったそうです。

その後妹が帰ってきて、Oさんは離婚。旦那さんは妹と再婚したとのことです。心も身体もつらい不妊治療中に一番ひどい裏切りを受けたOさんはしばらくショックから立ち直れませんでしたが、時間がたった今は誰に頼ることもなく元気にバリバリ働いています。

ftnコラムニスト:緑子