今回は勝手な理由で仲良くしていた人から嫌がらせを受ける羽目になった私の友人、Sさんのお話です。
仲の良い隣人
Sさんは旦那さんと小学生の子ども2人の4人家族。郊外のニュータウンに一軒家を購入し、休みの日には家族そろってお庭で家庭菜園の手入れをしたり、子どもの友達を呼んでバーベキュー大会を開催したりと、とても仲の良い家族です。
造成されたばかりのニュータウンにはSさんと同年代の夫婦が多く、子どもたちの年齢も近いので近所で顔を合わせればランチやお茶に出かけるような仲良しのママ友もたくさんできたといいます。
なかでも特に仲が良かったのは、Sさんの家のお隣りに住んでいるCさんでした。CさんのところはSさんの上の子と同じ学年の小学生がいて、ひとりっこで寂しいのかよくSさんのおうちに遊びに来てはまるで兄弟のように仲良く庭を駆け回ったり、ワイワイとゲームをしたり。
子どもたちを一緒に遊ばせながらママ同士はお茶とお菓子でおしゃべりに花を咲かせるなど、家族ぐるみでの交流が多く、SさんはCさんのことを一番の親友だと思っていました。
ママ友の態度が急変
しかしある時から、Cさんの子どもはぱたっと遊びに来なくなったのです。いつも楽しそうな笑い声が聞こえていた隣りの家は、カーテンを閉め切って静まり返っています。
誰か体調でも崩したのかとSさんがCさんの様子を伺うLINEを送ってみるものの、返事は全く返ってきません。Cさんの子どもは学校には来ているものの、Sさんの子を避けるような態度をとるのだと子どもたちはしょんぼりした様子。
そんな日々が続いていたある日、突然CさんからSさんに電話がありました。
「もしもしCさん? どうしたの? 」
『どうしたのじゃないわよ! お宅の子たちの遊ぶ声がうるさいから静かにさせてくれない!? 』
すごい剣幕で怒鳴りつけられ、Sさんはただ謝ることしかできませんでした。
『あとねえ、お宅の庭の木の枝がうちのスペースまで入ってきてるの、いい加減切ってよね! 』
「はあ、すみません……」
以前は庭の手入れのついでにはみ出しているところは切っておくわね、と言ってくれていたのに、あまりの態度の違いにSさんはただただ平謝り。
もしかしたら自分がCさんの気に障るようなことをしてしまったのかと、悩みながら庭の木の枝を切りました。
他のママ友からの情報
「ねえ最近、Cさんなんか変じゃない? 」
何人かのママ友たちで集まってお茶をしていると、ひとりのママ友がそう言い出しました。
「最近お茶に誘っても来てくれないし、すれ違っても挨拶もしてくれなくなったよね」
他のママ友たちもうんうんと頷いています。Sさんは電話の件を言おうか迷いましたが、とりあえずその場の様子を伺うことにしました。
「そういえばさ……うちの旦那、Cさんの旦那さんと同級生なんだけど」
ママ友のひとりが、気まずそうに口を開きました。なんと最近Cさんの旦那さんが急なリストラで会社を退職せざるを得なくなったというのです。
「新しい仕事もなかなか見つからないらしくて、奥さんが病んじゃってるんだって相談されたらしいんだよね…… 」
「え、そうなの? 」
Cさんの態度が急に変わったのはそのせいなのかも、とママ友たちは顔を見合わせました。
SさんはCさんが心配になり、『何か困ったことがあったら相談してね。力になれるかどうかはわからないけど、何でも聞くよ』とLINEを送りました。
その夜。家族と眠っていたSさんは自宅の玄関に何かがぶつけられる音で目を覚ましました。
「なに……? 」
窓から玄関のあたりを見下ろすと、Sさんの家の玄関に何かを投げつけている女性が見えました。その姿はまぎれもなく、Cさんでした。
「ちょっとCさん、何してるの!? 」
Cさんは2階の窓から声をかけてきたSさんを見上げ、大声で叫びました。
「何が相談してだよ!? ヌクヌク暮らしてる専業主婦のくせに!!! 幸せそうな家庭見せつけてんじゃねえよ! クソっ! 呑気にこんなもの育てやがって! 」
どうやらCさんが投げつけていたのは、Sさんの庭で育てていて、もう収穫間近だったトマト。庭からトマトをちぎって投げつけ続けるCさんを見て、Sさんの旦那さんは「警察を呼ぼう」と静かに言いました。
その後駆けつけた警察官にCさんは取り押さえられました。Cさんの旦那さんはちょうど夜勤のアルバイトに出ていて、留守にしている間の出来事でした。翌朝Cさんの旦那さんが謝罪に訪れ、Cさん一家はニュータウンから逃げるように引っ越してしまいました。
普通に暮らしているだけで人の恨みをかうこともあるのだと、Sさんはそれからママ友との距離感を考えるようになったとのことです。
ftnコラムニスト:緑子