遺産は亡くなった人からの最後のプレゼントと言えるほど、大切なものです。その遺産をより多く貰おうと、血縁関係でも揉めることは多々ありますよね。
今回は遺産相続でとんでもない事件に遭遇した私の友人Mさんのお話です。
ftnews.jp

旦那さんの祖母は資産家

Mさんの旦那さんは資産家の家庭で育った、いわゆるおぼっちゃま。お金持ちならではなのか、のんびりとして人が良く、あまりお金のことでうるさく言うような人ではありません。

しかし旦那さんのお姉さん、つまりMさんの義姉は非常にお金にがめつく、Mさんにも「弟の金目当てで結婚したんだろう」と言ってくるような人でした。

ある日、旦那さんの祖母が他界。不動産などかなりの資産を遺しているため、葬儀の後に弁護士さんが遺言書を開封すると言って皆を広間に集めました。
「遺産は孫たちで等分に分けるように」
それが、旦那さんのお祖母さんの遺言。お祖母さんは孫たちを可愛がっていたため、皆納得してそれを受け入れました。義姉以外は。

お祖母さんの孫にあたる人物は、旦那さんと義姉、そして旦那さんの伯父の娘、つまり旦那さんにとっては従姉妹にあたる女性の3人です。

しかし伯父夫婦がそろって事故で他界してからその女性はひとりで海外に渡航し、誰も連絡を取れない状態になっていました。もちろん祖母が亡くなったことも知りません。
「じゃあ私たち2人で分けていいってことよね?〇〇ちゃん(従姉妹)は行方不明なんだし、生きてるかどうかもわかんないじゃない」と義姉は鼻息荒く言いました。
「いやいや、そういうわけにはいかないだろ……なんとか見つけ出さないと、ばあちゃんの遺言なんだぞ 」
Mさんの旦那さんがそう言って、とりあえず調査会社に依頼して従姉妹を探す方向で話がまとまりました。

義姉が連れてきた女性

数日後「義実家に集まって欲しい」という義姉からの連絡を受け、Mさんと旦那さんは義実家に出向きました。そこには見たことのない女性が一人、仏壇の前で手を合わせていました。
「見つけたわよ! 〇〇ちゃん! 」義姉が誇らしげに言います。
「え……どうやって? 」
「探偵を使ったのよ! さ、早く遺産の話をしましょ」
実は旦那さんや義両親が最後に従姉妹に会ったのはもう十数年前のことなので、年齢を重ねた従姉妹の姿を見てもいまいちピンときません。
「本当に〇〇ちゃんなの? 」
義母が尋ねると、その女性は「はい、〇〇です」と言って頷きました。しかしよく聞いてみると、遺産の話をするというのにその女性は身分証明書を持ち合わせていないというのです。

これではその女性が本当に旦那さんの従姉妹の女性なのか、誰も確かめようがありません。
「海外に行ってたなら、パスポートとかないの? 」
「それが、盗まれてしまって…… 」
「盗まれたなら仕方ないわよね? でもこの人が〇〇ちゃんなのは間違いないんだからいいじゃない! 」
義姉はそう主張し、早く弁護士を呼んで手続きをしろと迫ります。困り果てて沈黙する義両親と、Mさん夫婦。そこに突然、1本の電話がかかってきました。
「あ、私が出ますね」
Mさんは義実家の電話に出るために席を外しました。

本当の従姉妹は……

「あの……お義姉さん」数分後、戻ってきたMさん。義姉はえらそうに腕を組んで言いました。
「何よ? 何の電話だったの? こんな大事な時に。まあMさんは他人だから、いてもいなくてもいいけど」
「その大事な話なんですけど、調査会社からの連絡で。〇〇さん、今アメリカにいるみたいです」
「はあ!? 」
一同は唖然として、義姉が連れてきた女性に注目しました。
「え、じゃあこの人誰だよ姉さん! 」
「それは、その…… 」
もごもごと口ごもる義姉。
「バレちゃったんなら仕方ないわね、私帰るから。せっかくお金くれるって言うから来たのに……  面倒くさいことは勘弁してよ、じゃあね」
従姉妹と名乗っていた女性は態度を急変させ、立ち上がってさっさと出て行ってしまいました。

義両親が義姉を問い詰めたところ、義姉は従姉妹と同じくらいの年齢の知り合いを従姉妹と騙って連れてきたというのです。その従姉妹に入る分の遺産を自分が手に入れて、女性に取り分を何割か渡すからと言って。
「遺産の3分の2を貰えれば、一生遊んで暮らせると思って…… 」
「本当に…… 我が娘ながら情けない!バカモン!!! 」
義両親は義姉に激怒し、遺産を3人で分けたらそれを持って義実家から出ていくように、そしてもう二度と顔を見せないようにと言い渡しました。

その後、アメリカにいる従姉妹と連絡がつき、遺産は無事に3分割されてそれぞれの手に渡りました。亡くなった人の遺志が尊重されて、本当に良かったですね。

ftnコラムニスト:緑子