急に始まった介護生活
Tさんは金融関係のOL。会社にはもう15年も勤めているベテランでした。しかし結婚をして5年ほど経った頃、急に旦那さんのお父さんが病に倒れ、要介護の状態になってしまいました。お母さんも高齢であったため、Tさんと旦那さんは義実家で同居をすることに。
「悪いけど、仕事辞めてくれないか? 」
同居にあたり、旦那さんはTさんに長く勤めた会社を辞め、介護に専念してくれるようにお願いしました。旦那さんの仕事は激務で人手不足。勤務形態を変えてもらうこともできず、仕方なくTさんは愛着のある会社を辞めて、家庭に入ることになったのです。
それからというもの、お姑さんは介護と家事をすっかりTさんに任せきり。食事の介助くらいはするものの、後は居間でのんびりテレビを観ているだけ。着替えや下のお世話などはTさんが全て一人で行っていました。
施設に入所が決まると……
慣れない介護に疲れ果てた様子のTさんを見て、旦那さんはお義父さんを介護施設に入所させることを決めました。
「施設なんか許さない! 家で介護もできない嫁なんて、ご近所に顔向けできないわ!」
お姑さんだけが最後まで反対していましたが、「面倒なことを全部人に押し付けて何言ってるんだ」と旦那さんに叱られ、渋々了承することに。
お義父さんが施設に入った後、Tさんは少し身体を休めるためにしばらく専業主婦として家にいようと思っていました。しかしそれもお姑さんには気に入らなかったようで……。
「Tさん、何ダラダラしてるの!? ひとつの家に2人も主婦はいらないのよ、働かざる者食うべからずよ!」
と言ってTさんに外で働くことを勧めてきました。挙句の果てにはこんなことまで言い出す始末。
「もうお父さんの面倒はみなくていいんだから、Tさんだけ出て行ってくれない? 私他人と暮らすの嫌だわ、信用できないし」
さすがのTさんも堪忍袋の緒が切れ、荷物をまとめて義実家を出ました。Tさんから事情を聞いた旦那さんも激怒し、2人は新たにマンションを借りて暮らすことにしたのです。
突然の電話
しばらく2人暮らしをのんびりと楽しんでいたある日、Tさんのスマホに1本の電話がかかってきました。それはもう顔も見たくない、あのお姑さんからだったのです。
「もしもし? 」
一応旦那さんのお母さんですから、用件だけは聞いておこうと通話ボタンを押したTさん。電話の向こうから聞こえてきたのは、弱々しいお姑さんの声でした。
『Tさん? あのね、私転んで足を骨折しちゃって、入院してるの……。悪いんだけど着替えとか洗面用具持ってきてもらえないかしら?』
よく聞いてみると、先にTさんの旦那さんにも電話をしたそうですが取り合ってもらえなかったそうです。
「すみません、私便利屋じゃないんで。困ったときだけ頼ってこないでくださいね。あ、お義父さんのことはどうぞご心配なく、様子は見に行ってますから。それじゃお大事に」
Tさんはあっさりと電話を切り、それ以降一切連絡を取っていないとのこと。
いびって追い出しておいて、困った時だけ嫁を利用しようなんて、そんな道理が通るはずありませんよね。
ftnコラムニスト:緑子