今回は久しぶりに同窓会のお知らせがSNSで回ってきたので参加してみたら、ちょっとした事件になってしまったEさんのお話です。
久しぶりの同窓会
Eさんは20代後半のOL。昼休みにSNSをチェックしていると、久しく連絡を取っていなかった中学の同級生、Sさんからフォローされ、同時に同窓会のお知らせメールが来ていることに気付きました。
「へえ、珍しい……久しぶりに同窓会もいいな」
メールに書いてあった同窓会の日がたまたま休みだったこともあり、Eさんは参加することをメッセージで伝えました。
実はその同窓会を開催するSさんとはあまり親しくはなかったEさん。しかし地元を離れて就職してからほとんど帰っていないため、たまには地元に戻ってみてもいいかな、と思ったのでした。
同じ中学のクラスメイトで、今はSNSだけの繋がりになっている他の同級生にも聞いたところ、皆揃って出席するとのことで、Eさんはがぜん同級生が楽しみになりました。
いよいよ同窓会当日!
「やだー! Eちゃん久しぶり! さすが東京の女、あか抜けてるねえ」
「何言ってんのー、全然変わってないよ」
「私めっちゃ太ったでしょ、子ども産んでから戻らなくてさ」
「えー、中学んときもそんな感じだったじゃん」
「ひどーい! 」
同窓会当日。Eさんは同窓会が行われる地元のホテルの入り口でさっそく同級生に会い、一緒に会場である大広間へ向かいました。
「ていうかさあ、Sさんが同窓会開くなんて意外だったよね」
ふいに同級生が言いました。
「え、なんで?」
「あ、Eちゃんが就職してすぐだったから知らないか。Sさん、実家が火事になって引っ越してから消息不明だったんだよねー」
「あらら、そりゃ大変だ」
会場に着くと、そこには男女合わせて20人ほどがすでに集まって昔話に花を咲かせていました。
「みんな意外と変わってないな……」
「うんうん、あそこにいるのサッカー部のキャプテンだっけ、めっちゃモテてた子」
「ほんとだ、相変わらずイケメンだなー」
皆それぞれに中学生の頃の面影があることに感心しながら、Eさんはふと会場の隅にいる女性に気付きました。その女性はひとりで壁ぎわに佇んで皆の姿を眺めていましたが、どう記憶をたどっても全く見たことのない女性なのです。
同窓会の会場に、知らない女性が……
「ねえねえあの子、誰だっけ? 全然思い出せないや」
Eさんは近くにいるクラスメイトに、その女性の名前を聞きました。
「いや、実は私もわかんないんだよね……あんな子いたっけ? 」
「マジ? ちょっと聞いてみよっか」
Eさんは同級生数人を連れてその女性に近づきました。女性はじっと1点を見つめており、その先にはサッカー部の元キャプテンだった男性が友人と楽しそうに談笑しています。
「あの……えっと、あなた誰だっけ? わかんなくてごめんね」
そうEさんが声をかけると、女性ははっと我に返ったようにEさんたちの方を向きました。
「私、Sだよ」
「え? ほんと? 」
記憶の中のSさんと目の前にいる女性はあまりにも違いすぎて、Eさんは驚きました。それもそのはず、Sさんは女子バレー部のキャプテンを務めていて、とても背の高いボーイッシュな女性でした。しかし目の前にいるのは小柄で華奢な女性。明らかに別人でした。
「いやいやさすがに身長は縮んだりしないでしょ……ってか、この同窓会開いたのもあなた? 」
「ええ、そうよ」
女性はEさんから目を逸らし、またサッカー部の元キャプテンを見つめました。
「あ、そろそろ開会の挨拶しなきゃ」
会場の一番奥にあるスタンドマイクの方に行こうとする女性の腕を、Eさんは慌てて掴みました。
「ちょっと待ってよ、本当にあなた誰? Sさんじゃないじゃん! 」
「何言ってるのよ、離して! 」
「いやいや離せない、Sさんはどこ? 」
「いいから離してよ!!! 」
女性とEさんが揉み合っていると、遠くにいた男性たちが何事かと近寄ってきました。
「おい……!お前なんでこんなとこにいるんだよ!!! 」
そう叫んだのは、サッカー部の元キャプテンでした。
「ちょっ……警察呼んでくれ!こいつ俺のストーカーなんだよ! 」
その一言で会場は騒然。女性はEさんの手を振り払って、会場から走り去りました。
後で聞いたところによると、その女性はサッカー部の元キャプテンにストーカー行為を繰り返し、接近禁止命令が出されていたそうです。
どこから情報を手に入れたのかはわからないけれど、同級生が消息を知らないSさんの名をかたってSNSのアカウントを作り、元キャプテンに会いたい一心で同窓会を開催したようです。
ストーカーで訴えられるほど好きな気持ちから、大勢の人を巻き込む大騒動まで起こしてしまうとは。恐ろしい話ですね。
ftnコラムニスト:緑子