小説家を目指してバイト三昧
Aさんはバイトに明け暮れる日々を過ごしていました。というのも、Aさんは小説家を目指していたため、下積みとしてそのような生活を送っていたのです。
Aさんは自分の名前を売るためにも、SNSで日頃思ったことや、短い文章をつぶやくという活動もしていました。そこまでフォロワーが多いわけではありませんでしたが、何かのキッカケになればいいと思っていたのです。
突然のメッセージ
そんなある日、AさんのSNSにメッセージが届きます。
「僕の自叙伝を書いてくれない? バイト代として30万円出すよ」
それはAさんに自叙伝を書いて欲しいという依頼でした。
自叙伝など書いたことのないAさん。さらに突然SNSで来た怪しいメッセージ。
しかし割のいいバイトですし、お金に困っていたこともあり、Aさんはその話に乗ってみることにしました。
おじさんと会うことに……
数週間後、Aさんは依頼してきた男性と喫茶店で会うことになりました。相手は50代のおじさんです。
見た目は普通のおじさんでしたが、自叙伝を書いて欲しいと言うくらいです。他の人とは違う特別な人生を歩んでいるのだろうとAさんは予想していました。
するとおじさんは、さっそく自分の人生を語り始めます。その話をまとめて、Aさんが自叙伝を書くのです。
おじさんの人生とは?
Aさんが聞いたおじさんの人生はこんな内容でした。
田舎に生まれ、厳しくも優しくもある両親に育てられた。学生時代には数人の友達と仲良くし、高校の時に初めての彼女ができる。高校卒業後に就職し、同期と同じくらいのスピードで昇進していき、30歳で結婚。息子2人が生まれ、順調に育っていき、特に家族や自身が病気をすることもなく、現在に至る……。
それは、とてつもなく普通の人生だったのです。
正直、何の見所もない人生でしたが、なんとかAさんはそれを自叙伝としてまとめました。そしてしっかり30万円をもらいます。
「本にするほどの人生じゃねぇだろ」という本音は言えないまま、Aさんは意味不明なバイトを終えたとのことでした。
確かになぜ自分の人生を自叙伝として書いてほしかったのか、まったく意味がわからないですよね。もしかしたら、誰かに自分の話を聞いて欲しかっただけなのかもしれません。
ftnコラムニスト:ふくろうクジラ