今回はお姑さんの手術に付き添ったら、お姑さんの本性を目の当たりにすることになったTさんのお話です。
優しいお姑さん
Tさんはまだ20代前半の頃に、10歳年上の旦那さんと結婚をしました。結婚から数年たっても子どもには恵まれず、不妊治療をしても妊娠には繋がりませんでした。
旦那さんは長男なので、孫を期待されていたのは確か。しかしなかなか授からないことにTさんはプレッシャーを感じていました。
「2人が仲良く暮らしてたらそれでいいのよ」
Tさんにとって幸運だったのは、お姑さんがそう言ってくれたことでした。子どもができないことを決して責めたりせかしたりすることなく、お姑さんはTさんと旦那さんを優しく見守ってくれていたのです。
お姑さんの入院
ある時、お姑さんが体調不良を訴えて入院することになりました。簡単ではありますが、全身麻酔で手術を受ける必要があるといいます。
Tさんは優しく接してくれたお姑さんへの恩返しのつもりで、入院準備から手術の付き添い、術後のケアを手伝うことを申し出ました。
「ありがとうね、Tちゃん。迷惑かけるわね」
「全然迷惑じゃないですよ! 早く元気になってくださいね」
手術までの間、Tさんはお姑さんの病室に通ってお姑さんを励ましました。
いよいよ手術……
そして、いよいよ手術の日。説明は事前に聞いていたので、Tさんと旦那さんは手術室に向かうお姑さんを励まし、そして無事に手術が終わるのを待っていました。
数時間後、手術室のドアが開いてベッドに横たわったままお姑さんが運ばれてきました。眠っているのかと思えば、どうも様子がおかしいことにTさんは気づきました。
「・・・・・・! 」
お姑さんは酸素マスクを口元に当てられながら、大声で何かを叫んでいたのです。
「すみません、どういう状態ですか? 」慌てて看護師さんに聞くと、どうやら麻酔が醒めかけている時によくあるせん妄という状態で、本人に意識はないとのこと。
「お義母さん、なんて言ってるんだろう……」
Tさんが近づくと、お姑さんはかっと目を開けて叫び出しました。
「近づくなこの野郎!!! 」
「…え? 」
思わず固まってしまうTさんと旦那さん。いつもの優しいお姑さんからは考えられない姿でした。
「子どもも産めやしないのにヘラヘラしてんじゃないよ! この石女が!!! 」
「はい、お部屋に運びますよー」
看護師さんが慌ててお姑さんのベッドを移動させ、Tさんと旦那さんはぽかんとしたままそれを見送りました。
「なんか俺、初めてあんなデカい声聞いたかも」と旦那さん。
「うん……多分お義母さんは悪くないけど、ちょっとショックだね……」
数時間後、麻酔が醒めたころに病室を覗くと、お姑さんは人が変わったように落ち着いた顔で眠っていました。
Tさんはそれから少しだけお姑さんへの見方が変わったとのこと。普段はニコニコと優しい人ほど、心の中に色々な思いをため込んでいるのだと思ったそうです。
ftnコラムニスト:緑子