今回は不育症の治療で産婦人科に通っていたTさんが経験したお話です。
不育症で産婦人科へ
Tさんは結婚して5年目。妊娠はするものの、お腹の中で赤ちゃんが成長せず流産してしまう、不育症の治療で総合病院の産婦人科に通っていました。
周りには検診で訪れるお腹の大きい女性も多く、Tさんはいつか自分もそうなることを願って通院を続けていました。
ある日いつものように病院の待合で診察を待っていると、隣りに座っていた自分と同年代の女性が突然大量の涙をこぼして泣き始めたのに気づきました。
「ちょっとあなた、大丈夫?」
慌てて自分のハンカチを差し出したTさん。
「ごめんなさい、妊娠している人を見るのがつらくて…ありがとうございます」
その女性はハンカチを受け取り、涙を拭きながら答えました。話を聞いてみるとその女性、Rさんは不妊症でこの病院にかかっているとのこと。ホルモン剤の服用で情緒が不安定になり、たまにこのように泣き出してしまうことがあるのだと言いました。
Tさんは自分は不育症であることを告げ、お互い元気な子を産めるように頑張ろうとRさんを慰めました。
その後連先を交換し、LINEでやりとりをしたり、診察の日が一緒なら診察の後に一緒にお茶をしたりするほど2人は親しくなったそうです。
待望の妊娠!今度こそ…
そんな日々が続いていたある時、Tさんは待望の妊娠。
流産しやすいので人一倍気をつけなければならず、しばらくお茶などはできなくなるかもしれないというLINEでをRさんに送りました。Rさんからの返事はありませんでした。
するとその日から、Tさんの自宅やスマホに昼夜を問わず非通知で電話がかかってくるようになったのです。電話に出ると切れる、出ると切れるの繰り返しで、Tさんは睡眠不足に。
「なんなの!?もう…」
自宅もスマホも非通知の電話は受けない設定にして、やっと安心して眠れるようになりました。
すると今度は知らない男性からいやらしい内容のLINEが沢山届くようになって、Tさんは自分のLINEのIDがどこかの掲示板に晒されたのだと気づき、友達以外からはLINEできない設定に変えなければなりませんでした。
嫌がらせのストレスで
度重なる嫌がらせにより、すっかり参ってしまったTさん。このままではお腹の赤ちゃんにも良くない影響を与えてしまいそう、また流産してしまうかもしれないという不安に悩まされるようになりました。
「お腹…痛い……」
Tさんはストレスにより腹痛を訴え、病院へ搬送されました。なんとかお腹の子は無事でしたが、医師からは絶対安静を命じられることに。
「今度こそは絶対産むんだ…!」
Tさんは心を決めて、スマホを手に取りました。嫌がらせが始まったのはRさんに妊娠を告げてから。疑いたくはないけれど、犯人は彼女としか考えられませんでした。
『流産しかけて今入院しています。もう嫌がらせはやめて、自分の治療に専念してください』
そうRさんにLINEをすると、すぐ既読はついたものの返事はありませんでした。
無事に出産、その後
その後Rさんが診察の曜日を変えたのか、検診の日にTさんがRさんと会うことは二度となかったそうです。
そしてTさんは元気な赤ちゃんを出産し、自宅へ赤ちゃんを連れて帰った日に1通のLINEが届きました。それはRさんからのLINEでした。
『無事に出産されたと人づてに聞きました、おめでとうございます。そして色々と不快な目に遭わせてしまったことをお詫びします。本当にごめんなさい。あなたの妊娠が羨ましくて妬ましくて、あんなことをしてしまいました。とてもあなたに顔向けができず、直接謝罪できないことをお許しください』
実はTさんも人づてに、Rさんが今妊娠していることを聞いていました。無言電話や卑猥なLINEには確かに苦しみましたが、Rさんがしたことを責める気にはとてもなれなかったそうです。
「元気な赤ちゃんを産んでね」
それだけ送って、TさんはRさんの連絡先を削除しました。
同じ悩みを持つもの同士だから仲良くなれたのに、このような形で友人が敵になってしまったのはとても残念ですね。それほどに、不育症や不妊症は深い深い悩みであるということは間違いありません。
ftnコラムニスト:緑子