たまの息抜きに・・・
Tさんは結婚して10年目の人妻。保育園に子どもを預けてフルタイムで働いています。ある日の仕事終わり、Tさんは会社の同僚に誘われ、子どもを旦那さんに任せて飲みに出かけることになりました。
「今日は独身気分ではしゃいじゃおうよ!」
「うんうん、楽しみ!」
同僚もTさんと同じく結婚していますが、たまにこうやって2人で飲みに出かけ、独身気分を味わうのがささやかなお楽しみ。
2人はウキウキしながら会社近くに新しくできたオシャレな居酒屋へ向かいました。そのお店はさほど広くはありませんが、おいしいお魚と日本酒を楽しめる大人向けのお店。店につくとあいにく満席で、相席でも良ければ入れるとのこと。
「相席かあ…」
知らない人と同じテーブルはちょっとな、とためらっていましたが、Tさんの同僚が「大丈夫です!」と答えてしまったので渋々席に着くことに。
「すみません、ちょっとお隣失礼します…」
2人はアクリル板で区切られた4人席に通されました。隣りはTさんと同じくらいの年代のサラリーマン風の男性客が2人。
「あ、どうぞ」
男性は2人ともにこやかに答え、隣の席に置いていたビジネスバッグを荷物入れに入れて席を空けてくれます。
「さあ、飲もう!でも日本酒ってどれがいいのかな…」
実はTさんも同僚もあまり日本酒に詳しくないので、2人ともどんな日本酒を頼むかメニューを見ながら悩んでいました。するとふいに、隣の席から声が。
「はじめてなら、飲み比べセットはどうですか?」
「ああ、なるほど!それいいですね」
「あ、出しゃばってすみません!」
「いえいえ、食べ物は何がおすすめですか?」
どうやら隣りの席の男性客は常連のようで、勧めてくれたものを頼んだり、おすすめメニューを聞いたりしているうちに、意気投合して4人で飲むことになりました。
つい独身のふりをして
「たまにはこういうのもいいよね、ナンパじゃないし…」と思いながらその場を楽しむTさんと同僚。
「ねえねえ、2人は結婚してるの?」
実はTさんも同僚も結婚指輪をしていなかったので、隣りの男性客にそう尋ねられました。すると同僚がふざけて「2人とも独身!売れ残りよー!」と答えたので、Tさんも適当に話を合わせることに。
「俺たちも2人とも独身だよ」と男性たちが答え、その場はますますいい雰囲気に。今日限りだし別にいいだろうと思っていたTさんでしたが、帰り際にTさんの隣りにいた男性がこっそりTさんの連絡先を聞いてきたそうです。
その男性、実はTさんのかなりタイプ。すらりと背が高く、メガネが知的な男性だったのでTさんは酔った勢いで連絡先を教えてしまいました。
その日から1週間、男性からの連絡は来ませんでした。
「きっと連絡なんてこないだろうな…」半分残念、半分ほっとしていたTさん。しかし、それから間もなく彼から連絡が来てしまったのです。
「こんにちは、覚えてるかな?〇〇です」
ドキッとして、つい隠れるように返事をしてしまうTさん。実は結婚をしているのでこういうのは良くない、とは言えず、彼とのLINEは毎日のように続きました。
「またあの店で会おうよ。今度は2人で」
そう言われて、Tさんは断れませんでした。
嘘をついたまま不倫関係に、そして・・・
2人でお酒を飲みに行ってしまうと、坂道を転がり落ちるようにTさんと彼は恋に落ち、不倫関係に。お互い仕事が終わってからお酒を飲みに行ったり、時にはラブホテルに行ったり。
旦那さんには「最近仕事が忙しくて」と言い訳をして、保育園のお迎えを頼むことも増えました。そうしてまで彼に会いたくて、Tさんは完全に初めての不倫にどっぷりハマってしまったのです。
「結婚してるって言った方がいいよね、彼は独身なんだし、私が彼の時間を奪ってしまってる…」そう思いながらも、なかなか言い出せないTさん。
彼は土日も仕事があるとのことで、Tさんがお休みの土日に会おうと言われなかったのも既婚者であることを隠すには好都合でした。
そんな関係が半年ほど続いていたある日。Tさんは帰り際に仕事のミスを見つけたため残業しなければならなくなり、そういう日に限って旦那さんも残業。そこで保育園に連絡し、いつもより少しだけ遅い時間に保育園にお迎えに行きました。
「遅くなってすみません…!」
保育園に駆け込んだTさんの目に飛び込んできたのは、小さな男の子の手を引く背の高い男性。まさしく、不倫中の彼の姿でした。
「え…」
お互いに顔を合わせて、絶句。そして軽く会釈をして、彼はその場を去りました。
お互い嘘をついていたことに気まずくなったのか、彼からの連絡は途絶えたそうです。自分だけが嘘をついて罪悪感をおぼえていたら、まさか向こうも嘘をついていたとは。Tさんはもう2度と独身のふりはしないと決めたそうです。もちろん、不倫も。
ftnコラムニスト:緑子