200万票もの応援数が集まる接客技術を競い合う大会
仲 希望(なか・のぞみ)さん : 42歳。3兄弟。2003年にユナイテッドアローズに入社。全国の複数店舗を経て2019年に新宿店に配属。2020年よりECサイトのスタイリング投稿を開始。以来、ユナイテッドアローズ販売員の中でもトップクラスの投稿数、経由売上、フォロアー数を維持している
昨年10月に開催された「STAFF OF THE YEAR 2025」(スタッフ オブ ザ イヤー)」では、全国にある約3000ブランドの店員が自身の接客技術を競い合います。株式会社バニッシュ・スタンダードが主催するこの大会は、ファースト・セカンド・サード・ファイナルステージ、と4ステージあり、約5か月というロングスパンでの激闘となります。売り上げや、スタッフが投稿するコーディネートなどを見たお客様などからのWEB投票数、リアル接客などを競い合い、約200万票もの応援数が集まる注目度の高い大会です。
ファーストステージを経て、セカンドステージには約2千名の店舗スタッフが参加。オンライン接客での売り上げをはじめ、特設サイトでのWEB投票数での評価を経て、サードステージに勝ち残ったのは30名、ファイナルステージで戦えるのは、ごくわずかの14名です。
この大会で、2025年の『準グランプリ』に輝いたのは、【ユナイテッドアローズ 新宿店】の仲 希望(なか・のぞみ)さん。実は、仲さんは3年前の2023年にも「STAFF OF THE YEAR」グランプリを獲得しており、3年連続でファイナルステージの出場を果たし、2度目の受賞です。
リアルとオンライン共に、お客様からたくさんの支持を集めるのは大変なこと。なぜこれだけのファンを獲得し、大会で好成績を残すことができたのでしょうか。
「なぜダムに行きたいのか?」リアル接客ではお客様の潜在ニーズを感じ取る
責任感が強く、人一倍努力することを惜しまない仲さん。ユナイテッドアローズ社内でも、スタイル投稿数やPV数、フォロワー数はトップクラスを誇ります。
「今回のファイナルステージで行われた、ロールプレイング接客バトルを勝ち抜いたことが、準グランプリという結果につながったのではないかと思っています」
と仲さん。大会の舞台上で行われる1on1のロールプレイング接客バトルでは、仕事の疲れから買い物に来たというお客様との会話の中で、お客様が求めるスタイリングを提案していきます。短い会話の中で「休日にダムに行く」というキーワードを見事導き出し、その気持ちに寄り添うファッションを提案しました。
「ダムに行く予定がある日のファッションですと、暖かくて動きやすいファッションを思いつくと思うのですが、ダムになぜ行くのだろうというところまで考えてスタイリングをご提案させていただきました。
ダムに行くのは、きっとお客様自身がダムを見て癒されたいからなのかもしれません。もしそうだとしたら、心が優しく穏やかになるようなベージュカラーをベースにしたスタイリングはどうだろうかと考えました。目的の奥にあるお客様の感情や背景まで読み取ろうとすることが、接客では大事なのではないかと思っています」
仲さんの潜在ニーズを読み取る接客技術は、毎日の業務にも活かされています。
「例えば、ご来店くださったお客様が”ピンクが苦手なんですよ”とお話くださったとします。お客様は、ピンクを”着たくない”のでしょうか。それとも、ピンクを着たい気持ちはあるけれど、何か理由があって着られないと考えていらっしゃるのでしょうか。この言葉の本当の意味はなんなんだろうというところまで想像して、お洋服のおすすめをご提案させていただきます。
ピンクを着たいのに難しいというお考えでしたら、ピンクにもたくさんの種類があるので、ぜひ楽しんでいただきたいなって思うんです。なので、このピンクだったら肌馴染みも良くて着やすいですよとご提案いたします。
もしくはピンクじゃなくても、明るい色を着たいというお気持ちがありそうなのであれば、他の色をご提案するのも良いかもしれません。会話を通してお客様の潜在ニーズを考え、お客様に心地よくお買い物を楽しんでいただきたいんです」
仲さんの潜在ニーズを読み取る接客は、自身が40歳を過ぎた頃からできるようにになってきたと言います。
「”若い頃は、これ可愛いですよね!”みたいなところをただただ伝える接客だったと思います。実は、昨年まではお客様のお気持ちを言葉に出せるところまではできていませんでした。
感覚ではできていると言われることも多かったのですが、それをやっと、お客様は今はこういう気持ちなのでこういうお洋服を求めていらっしゃる、と言葉にして表現できるようになってきたと感じています」
この接客方法は、毎日店舗オープン前に行っている自社サイトのスタイリング投稿も活かされていました。
毎朝のルーティーンのスタイリング投稿でファンが増えていく
仲さんはいつも、新宿店がオープンする3時間前に店舗に到着し、自社の通販ページに投稿するスタイリング写真を撮影するのが日課です。2023年にグランプリを取る前から、このルーティーンは変わりません。
スタイリングを組み、スマートフォンをセッティングし、カメラの前で、慣れた様子で自撮りでポーズをとっていきます。パシャパシャパシャと、自動で連続撮影を行い、撮影時間はたったの5分。この写真を、スタイリング投稿として自社サイトに日々アップしています。1か月で、会社で決められた50投稿くらいをこなしていくのだそう。
「例えば今日のお洋服でしたら、取材があることや、夜にもお食事会があるので、かっちりとしたジャケットスタイルまではいかないながらも、適度にきちんと感のある女性らしいスタイリングを目指しました」
「私は40代なのですが、今年はブーツを履きたくて。でも、ブーツに短パンとかミニスカートを合わせてしまうと、やっぱり年齢を考えると躊躇してしまいます。ですが、ハーフパンツに合わせるならいけるかも…。という絶妙なバランスを日々模索中です。
私自身のコンプレックスとしては、上半身に比べて下半身が逞しくて…。気に入ったパンツが入らないということもあります。なので、それをいかに上手に隠しつつ、より良く見せるかをスタイリングでは考えています。このボリューミーなペプラムトップスは気になるお尻回りを隠してくれるので便利です。
お洋服って、いろんなコンプレックスを上手に誤魔化してくれるなって思っていて。
もしお客様がこういうお洋服は苦手だということがあったとしても、”こういう感じだったら素敵に着られますよ!”ということは、SNSでも店頭でもご提案できるようにすごく意識しています」
「毎日ルーティーンとして行っている自社サイトのスタイリング投稿では、商品を使用するシーンとその活用場面をきちんと提案し、どんな気分になりそうかというのもご提案していきます。毎日毎日の気分を切り取っていく作業です。
そこで大切にしているのは季節感です。例えば、新しい年が始まって新年のご挨拶なども増えれば、ジャケットスタイルなどが気になると思うんです。なので、ジャケットスタイルの投稿を増やしていきました」
スムーズにスタイリング投稿やSNS投稿をこなしているように見える仲さんですが、試行錯誤の日々。始めた頃はどう投稿していいのかも分からなかったと言います。
仕事なのでやっていくしかないと思って投稿をし続けました
「スタイリング投稿をし始めた頃から、毎日撮影をして投稿すると決めているんです。でも、最初は戸惑いもありました。コロナ禍を経て接客業務もDXにシフトしていきましたが、店舗で接客をしながらも、ウェブでもスタイリング投稿をしていかなくてはならない、というのは大変不安で戸惑いもありました。
でも、仕事なのでやっていくしかない。色々と試しながら投稿し続けました。
実は、私が【Instagram】を始めたのも2020年くらいからと遅いんです。会社で【Instagram】を強化することになってから1年くらいは、”私はやらないですよ”と言い続けていました。
というのも、自分のことを投稿するというのが、40代に取ってはハードルが高かったんです。自分自身を急には変えられないと思っていました。でも仕事でやっておいた方が良いといういうことで、渋々始めたんです」
ですが、悩みながらも毎日投稿をし続けていると、見えてきたこともありました。
「去年の実績よりも今年の実績を上げていかなければならいと日々考えながら投稿していくと、私はお客様からこんなスタイリングを求められているんだなというのが、感覚でわかるようになってきました。
ユナイテッドアローズとして売っていきたいものがあっても、私の投稿を見てくださっているリアルなお客様は、私が得意としている40代にぴったりな、少し大人向けのスタイリングを見にきてくださっています。
なので、トレンド感を大事にしながらも、投稿ではお出かけでも着られるようなかっちり感もありつつ、少しカジュアルな抜け感のあるスタイリングを意識して組んでいます」
「私自身、2024年秋冬にデビューしたウィメンズブランド”conte”との出会いでスタイリングが確立していったと感じています。ナチュラルさがありながらモード感もあるお洋服です。
このブランドと出会い、自分が無理しないで着られるスタイリングが素敵だなと思いました。それまではなんだか少し頑張って、短い丈のお洋服などを着たりして、肌見せをしていたかなと思います」
2度の大会出場を経てこれから目標にしていることは?
2023年の「STAFF OF THE YEAR」で仲さんがグランプリを受賞した後、ユナイテッドアローズ内でもウェブ活用の強化が行われました。そして、仲さんは人材認定制度「DXセールスマスター」に認定されます。この認定は、質の高いDX活動を通じて「感動提供」を体現する人材を認定するユナイテッドアローズ独自の制度です。
「私は、会社でDXセールスマスターという役割を担っていて、デジタルの部分で会社を引っ張っていかなくてはならないという責務があります。2023年の大会でグランプリを取って以降、そのチームを引っ張っていくのが私の役割なので、2025年大会も出場しないわけにはいきませんでした。
出場するからには、がむしゃらにやるしかないと思って望みました。
準グランプリを取ったこれからは、後輩の育成にも力を入れていきたいと思っています。3人以上を「STAFF OF THE YEAR」のファイナルステージに立たせてあげることがこれからの目標です」
大会出場後、仲さんは店頭での販売を軸に、社内での活躍の幅をどんどん広げていく。
「【Instagram】にもさらに力を入れていきたいです。ユナイテッドアローズではスタッフみんなが【Instagram】も運用していますが、まだフォロワー数が5万を超えるような人は出てきていません。例えば、フォロワー数をさらに増やせるように自分が頑張ることで、他のスタッフも頑張ってくれるかもしれません。一緒に色々と取り組んでいきながら、後輩と一緒に自分自身も成長して行けたらいいなと考えています。
一緒にインスタライブをしたり、売れている商品を分析したり、自分もできないのに後輩の方々にこうした方が良いよというアドバイスは性格上できないので、共に成長できる環境を整えていき、信頼関係を築いていきたいと考えています」
Photograph:細谷悠美
Senior Writer:柳堀栄子