率先して接客や販売にデジタルデータを活用
渋谷マークシティ店(現在は閉店)に勤務している時、栗本さんは販売の現場に立つスタッフとして新たな武器を得ます。それがDXの活用。
「デジタルの融合はこれからの時代、絶対必要だと感じていました。積極的に取り組んでいる同業他社のブランドさんはチェックしていましたし、デジタルは誰かが始めなきゃいけないと思っていたので、まず自分がやろう、と。コロナ禍当時はスタイリング投稿だけでなく、週に1〜2度のライブ配信も行っていました」
同じ接客ではあるものの、目の前にお客様がいる対面とスタイリング投稿では、メディアというフィルターかかります。
「オンラインは、お顔が一切見えない不特定多数の方。自分はこれが可愛い、好きという感覚を対面接客より出しています。ただお客様には【グリーンレーベル リラクシング】のイメージがありますから、自分軸に偏りすぎないように注意しています。イメージからかけ離れたアイテムやコーディネートの提案はしないよう自分に課しています」
DXを活用したアプローチで「STAFF OF THE YEAR 2024」へ
自由が丘店の店長として忙しい日々を送る中、「STAFF OF THE YEAR 2024」への出場を決意します。この背景には、未来を見据えた栗本さんの決心が見えます。
「実は昨年の大会も出場していたんです。仕事以外での時間は全部投資するくらい大会に向けてがんばりましたが、あと1歩のところでファイナリストを逃してしまいました。
時間も体への負担も大きい大会への挑戦はお店のメンバーの理解も必要ですし、私の仕事は自由が丘店の店長。それでも挑戦したかった動機の一つに、社内のDXセールスマスターという肩書をもらっているから。それに選ばれている以上『STAFF OF THE YEAR』にチャレンジしなければならない。2024年が最後、背水の陣で参加しました」
DXセールスマスターとは、ユナイテッドアローズ社内でDXを推進する模範的販売員に与えられる肩書。ユナイテッドアローズ社のオンラインストアでのスタイリング投稿の本数、直接売上、PV、お気に入り登録数が社内最上位ランクであり、お客様から高い支持を得ているスタッフに授与されます。栗本さんはDXの部分により注力して「STAFF OF THE YEAR 2024」のファイナリストを目指しました。
「去年と同じアプローチでは勝てない。今年は毎日のスタイリング投稿に加え、社内にあるお客様のデータを分析して対面での接客にも活用しました。
さらに弊社のオンラインストアにあるボイスにもDXを駆使。ボイスは簡易ブログのようなもので、オンライン上で商品のおすすめできます。ここにデータ分析を絡めた投稿を始めると、ボイス経由の売上金額が4倍ほど上がりました。
データを活用して、今までの仕事のやり方を変え、生産性を上げる視点を持つこと。そこが去年と一番違った、今年ならではの『STAFF OF THE YEAR』へのアプローチでした」
販売の現場に立ちながら、ここまで意識的にDXを活用しているスタッフはまだ珍しく、この戦略が奏功し、ファースト、セカンドステージを突破。念願叶って進出したファイナルステージでも日頃の接客技術を発揮し、見事グランプリに輝きます。
「2020年以降、精力的に取り組んでいたデジタルの活用が4年越しに評価していただけて、積み上げてきたものが形になりました。結果を出さなかったら、支えてくれたメンバーたちに顔向けできんぞって気持ちもありましたので、安心しましたね」
ショップスタッフの可能性を広げるため、道を切り拓いていきたい
栗本さんがDXを接客や販売に活用する理由は、目新しさだけではありません。
「2024年4月からデジタルマーケティング部でのお仕事も始めさせてもらっています。専門的な知識を持った方たちと一緒にお仕事をする中で、今後DXはがんばって使いこなすものではなく、通常業務に組み込まれるのが自然な流れになると感じています。
ますますオンラインでの売上は増えるでしょうし、ショップスタッフももっとオンラインでの売上に貢献しなければならない。率先してデジタルに取り組むことで、スタッフたちのデジタルに対する意識を変えたい思いがあります」
デジタルマーケティング部の仕事を始めたのも、自身だけでなく後輩の将来も考えてのこと。
「私は一線を走り続けるタイプではなく、後進の育成の方に興味があるんです。今後はショップスタッフみんなの可能性をもっと広げてもらうため、新しい道を作る方にシフトしていきたくて。『STAFF OF THE YEAR』で私が結果を出せば、後輩たちにも納得してもらいやすいかなって思惑もありました」
栗本さんは今後店頭に立ち続けながらも、いっそう業務のDX化を強化・推進したいと考えています。
「ショップスタッフや店長としての経験を生かしながら、DXにもっと関わって新しい働き方を模索していきたいですね。DXを活用しているショップスタッフはまだ少なく、未知の領域。いろんなチャレンジができると信じています」
※価格はすべて税込みです
Photograph:川本史織
Senior Writer:津島千佳