キーワード1)
ヴィンテージ、ノスタルジーを今風に
ヴィンテージ、ノスタルジーといった、レトロ寄りのテイストが盛り上がっています。ゴブラン織り風の手の込んだクラシック調のジレを素肌にあでやかにまとって。どちらもニットの帽子とアームウォーマーで穏やかな癒やしムードをプラス。どこかノスタルジックな雰囲気の色調やモチーフのスカートが穏やかな気分を漂わせています。
田中文江デザイナーが手掛ける、東京発の人気レディースブランド「FUMIE TANAKA(フミエタナカ)」はヴィンテージ感を帯びたタイムレスな作風で広く支持を集めています。「凜としたフェミニン」が薫るのも人気の理由。アクセサリーの丁寧な作り込みでも有名です。今季は「OLD BOOK SMELL」をテーマに選んでいます。古本の匂いに通じる、懐かしげで知的なたたずまいが魅力的です。
キーワード2)
ミニマルを華やかに仕上げる 知的なツイスト
飾り気を抑えた「ミニマル」のスタイリングが人気を得ています。単にシンプルなのではなく、細部にひねりを利かせる知的なアレンジが今年流です。「白シャツ×黒パンツ」という一見、定番の極みのような装い。そこに、シャツの上からクロップド丈スパンコールニットを重ねて、相反する華やかさを添えて。シャツ裾のウエストアウトで縦長レイヤードも取り入れたトレンドスタイルです。
茅野誉之デザイナーの名前を冠した「CINOH(チノ)」はワークウエアやストリートなどの洗練されたメンズテイストを程よく取り入れています。女っぽすぎないさじ加減が巧み。ミニマルでクリーンなシルエットに、細部に目配りしたディテールが魅力です。今回のコレクションでは強さを秘めたイメージの「GENTLE GLIMMER」をテーマに掲げ、飾りすぎない装飾感を印象付けました。
キーワード3)
ボリュームクチュール 過剰な立体感を優美に
過剰なほどの量感で遊ぶ「ビッグシルエット」の提案が相次いでいます。ワンサイズ大きい「オーバーサイズ」の上を行くボリュームです。ダウンジャケットはふわふわでもこもこ。朗らかなかさばり加減が逆に着やせ効果を生んでいます。フリンジ・ミニワンピースの上にざっくりニットをオン。タイツとヒールサンダルで上下の量感格差をいっそう際立たせました。
「Maison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ)」の三原康裕デザイナーはもともと靴作りから始まった職人肌のベテランクリエイターです。ファニーなムードや手仕事の丁寧さを大切にした、独創的なものづくりで海外でも多くのファンがいて人気を誇る大御所ブランド。秋冬コレクションではオーバーサイズで引き出す、ユーモラスな不完全さをテーマに据えて、ほほえましい立体感を際立たせました。
キーワード4)
リボン旋風 甘さ控えめでエイジレスに
リボンがキーディテールに浮上してきました。その勢いはまるで「リボン旋風」。しかし、これまでのお嬢様風や貴婦人ムードだけではなく、フェティッシュやロックな雰囲気で取り入れるのが新しい操り方。パンツスーツの首元にリボンを迎えました。袖レースでセンシュアル(官能的)を投入。パンツスーツがクールに仕上がっています。リボンを甘く使わない新感覚コーデです。
舟山瑛美デザイナーの「FETICO(フェティコ)」はブランド名の通り、他者にこびない、凜々しくフェティッシュな装いが持ち味です。色気を出しすぎないボディーコンシャスが優美なシルエットを描き出します。フェミニン感と強さを兼ね備えたポジティブな身体観が今の時代感にマッチ。秋冬コレクションでは「Eternal Favorites」をテーマに掲げて、映画『アダムス・ファミリー』のゴシック風味を盛り込んだエイジレスな装いを用意しました。
キーワード5)
タフ×フェミニン 上下を強×薄でコントラスト
自分らしく等身大でありたいという意識が広がり、装いにもそうした気持ちが反影され始めました。タフ感を帯びたアウターはその一例。フェミニンさを示すアイテムと交わらせて、ミックステイストに整えるスタイリングが支持を得ています。ミリタリー風アウターに引き合わせたのは、シアー感のあるマキシ丈スカート。上下で風合いのコントラストが際立っています。内なる強さとやわらかいエレガンスが融け合うかのようです。
「MURRAL(ミューラル)」は村松祐輔・関口愛弓デュオが手がける、刺繍に強みを持つブランドです。繊細で大胆なニードルワークでファンを魅了しています。日本各地の伝統的な職人技を重んじていて、オリジナル生地作りが巧み。秋冬コレクションは「WITH」をテーマに選んで、過剰な装飾を遠ざけながらも、静かな情感を宿すようなムードを醸し出しました。
キーワード6)
プレッピーをはかなげに 自分好みに味付け
英国の伝統的なトラッドを崩したプレッピーの勢いが続いています。ロングトレンドになったのを受けて、差し込むテイストも徐々に変化。はかなげ感やセンシュアル、きれいめなど、自分好みの趣向を盛り込みやすくなってきました。ショートボトムスを組み入れたジャケット・セットアップはオーソドックスさを残しながらも型にはまらないアレンジ。ジップアップやチェック柄シャツでの「ずらし」も効いています。
「日常に描く夢」をコンセプトに据えたブランドが岩田翔・滝澤裕史デュオの「tiit tokyo(ティート トウキョウ)」。職人技を注ぎ込んだ生地作りに強みを持っています。着る人の内なる物語を引き出すかのような、繊細で叙情的なムードを宿し、装いに自然なムードを漂わせます。秋冬コレクションでは「Mirror lake」をテーマに選び、映画『ブラック・スワン』から着想を得た、危うげでダークな雰囲気をまとわせました。
東京モードの最新ルックから、自分好みのトレンドをチョイスして
人気の国内6ブランドはそれぞれに持ち味や方向性が異なり、東京モードの奥行きを示しています。6つのトレンドキーワードを意識すれば、自分好みのコーディネートに役立ちそう。スタイリングで大事なのは、トレンドに引きずられないで、自分勝手に「いいとこどり」するようなつもりで、自在にアレンジするところ。まだ暑い日が続きますが、今のうちから秋おしゃれの予習を始めておけば、秋の立ち上がりから自分らしい着こなしを楽しめると思います!
ファッションジャーナリスト 宮田理江