Instagramのフォロワーは約7万人、単著も発売し、メディアからもその洗練された着こなしが注目されている【デミルクス ビームス】ディレクターの目黒越子さん。22歳でアルバイトのショップスタッフからキャリアを始め、38歳でプレス、41歳でディレクターになった遅咲きとも言える目黒さんのこれまでを、前後編で振り返ります。後編はショップスタッフ、プレス、ディレクターとステージを変えながらも、仕事において目黒さんが変わらず大切にしていることをうかがいました。

異動は青天の霹靂。人対人はショップスタッフもプレスも変わらない

――ショップスタッフや、店舗・エリアマネージャーなど、38歳でプレスになられるまでは、ずっと販売に関わる現場を担当されていました。プレスは志望されていたんですか?

目黒 一度も志望していなくて。本当に突然のことで、ただただ驚きました。

――プレスは20代中盤くらいになって、そこから一筋みたいなキャリアの方が多いじゃないですか。

目黒 そういうイメージがありますよね。だから余計「なんでだろう、きっとこれには意図がある」って思ってました(笑)。当時のプレスチームには人気の若手スタッフが多くいました。彼女たちをより輝かせるため、全体を俯瞰できるサポート役が必要だったのかな、と自己分析しています。あと、【デミルクス ビームス】はスタッフも媒体の方も大人の方が多かったので、30代後半の私にそのような白羽の矢が立ったのだと思います。

取材はビームス社のアーカイブが飾られたスペースで行われました。

出典:デミルクス ビームス

――プレスはアパレルの業界の中でも憧れの職種です。気負いはありましたか?

目黒 ある程度年を重ねていることもあり、あまり気負いはなかったです。そもそも異動した2020年は、コロナ禍が始まったばかりで、リース(媒体やタレントに向けたサンプルの貸出業務)も展示会も、会食もできない状況で、気負う間もなくコロナ禍に巻き込まれた感じです。それもあり、当初はプレスの仕事内容が掴めずに迷走していました。コロナが落ち着いて、やっと人に会え、撮影などができるようになって、ようやく仕事の本質が理解でき始めた感じですね。

――販売もプレスも、対人間という点では同じです。販売とプレスで、意識を変えていましたか?

目黒 当初は意識を変えなきゃいけないと意識していましたけど、変えなくていいんだと思えました。結局人と人なので顔を覚えてもらうとか、また指名をいただけるとかは、ショップスタッフ時代のお客様の再来店に似ている気がするので。

飛躍の契機になったInstagramは、フォロワーが必要な情報を発信するのがこだわり

――Instagramを始められたのも大きな転機ですよね。

目黒 ストーリーズを毎日、フィードは2日に1つは上げるところから始めました。最初はフォローしてくださっている方がどんな情報に興味をお持ちになり、お役に立ててもらえるかがわからなかったので、オン・オフの日、ライフスタイルのことなど様々な情報を投稿していました。その中でも多くの方に広がる投稿があって、昔のお客様と再会できたり、新しい方とつながれたりとInstagramでのコミュニケーションが一気に増えました。このように取材をしていただく機会も増えて、本当に転機だったと思います。

目黒さんのInstagram。

出典:デミルクス ビームス

――Instagramで注目された投稿はどれですか?

目黒 この投稿の反響がこれまでになく高かったんです。本格的に投稿を始めて1カ月後くらいの時でした。

注目されるきっかけになった、2022年7月27日の投稿。

出典:デミルクス ビームス

この写真をきっかけに投稿を継続していくと日に日にフォロワーの方が増え、あっという間に1万人もの方にフォローしていただくように。コメント・DMも日本の方だけでなく、中国や韓国といったアジア圏だけでなく、英語圏やスペイン語圏など様々な言語でいただくようになりました。この反響に励まされて、投稿を続けようと思えました。

――Instagramを投稿する上で心がけていることは?

目黒 今は月に1回ぐらいの投稿ですが、ストーリーズはほぼ毎日続けています。Instagramはフォロワーの方に必要な情報をお届けし、つながりを大切にしているツール。ノイズにならないように、本当に伝えたい、伝えるべき情報だけをお届けしようと心がけています。

――目黒さんは+αの情報を渡そうとするサービス精神が素晴らしいですね。

目黒 ありがとうございます。あまり意識はしていなかったのですが、ショップスタッフの時と同様の精神です。私もいつもポジティブな情報を求めています。せっかく時間を使ってくださるのなら、何か役立つ情報をお渡ししたい。いいと思うことや経験して得たことを共有し合えば、関わる人みんなを高め合えると信じています。

2024年3月より【デミルクス ビームス】のディレクターに

――2024年春夏シーズンに【デミルクス ビームス】のディレクターに就任されます。

目黒 ディレクターは、してみたいことの一つでした。プレス時代は【デミルクス ビームス】以外のレーベルのプレスも担当していましたし、ビームス社全体の業務をすることもありました。仕事の幅が広がったのはありがたかったですが、【デミルクス ビームス】に集中したくなったんです。

――【デミルクス ビームス】の1号店時代から携わっているし、思い入れがあるんですね。

目黒 約20年関わって、お客様にも取り扱うアイテムにも愛着がありますし、プレス時代から【デミルクス ビームス】の中にある【ドットエム】というコレクションのディレクションにも携わらせてもらっていました。思い入れが強いので【デミルクス ビームス】の全てを把握したい。それならばディレクターかな、と。ディレクターでも販売やプレスの経験は活かせるんじゃないか、とも思って。そこで気持ちが固まりました。ディレクターになって、勉強しなきゃいけないことがさらに増えたので、まだまだ修行中ではありますが。

コミュニケーションや縁を大切にしている目黒さん。

出典:デミルクス ビームス

――これまでの流れを踏襲するディレクターと、刷新する方といますが、目黒さんはどちらですか?

目黒 【デミルクス ビームス】は大人の女性に向けてクリーンでモダン、ベーシックの中にフェミニンさをご提案するレーベルで、ディレクターの変更で方向性は大きく変わらないことが前提にあります。今まで蓄積してきたものを継続しながら、自分らしさを足せる部分は足す。本当に必要な提案をグラデーションのように続けていきたいと考えています。

――【デミルクス ビームス】は2024年で21周を迎えました。21年も続いていたら、長くついてきてくださるファンもいますもんね。

目黒 長く愛用いただいているお客様には本当に支えられています。いつでも安心して袖を通せ、スタイルを少しアップデートできる、頼りになる洋服を提案するレーベルを目指しています。もちろん【デミルクス ビームス】をご存知ないお客様にも目を向けていただけるように努力します。

長く働いているからこその再会も楽しみ。どんな職種でもコミュニケーションは大切

インタビューを通し、仕事では常に他者を尊重していることが伝わってきました。

出典:デミルクス ビームス

――販売、プレス、ディレクターと3つの職種を経験して、仕事をする上で真理だと思うことはありますか?

目黒 職種が変わっても再会し、改めてお仕事を共にする機会に恵まれたのは、コミュニケーションの大切さを意識していたからだと思います。やっぱりコミュニケーションは、どんな職種でも大事ではないでしょうか。私自身、コミュニケーション上手ではないですが、人と関わることが好きなので、またご一緒できることを願いながらお付き合いをしています。

目黒さんの夏の定番がリネンスカート。快適さとリネンならではの大人っぽくて季節感のあるシワ感も楽しんでほしい、と目黒さんも一押し。スカート各¥20,900(税込)【デミルクス ビームス】

出典:デミルクス ビームス

――40歳前後のいわゆるアラフォーは、迷っている人も多い世代だと思うんです。どうやったら目黒さんみたいに目標が見つけられますか?

目黒 私も40歳を目前に迷いや焦りを感じた時もありました。でも何かを始めるのに全然遅くないです、40歳って。人生100年・120年時代と言われていますし、集中できること、好きなことをコツコツ続けることで自分の中で目標が明確になる時がくるはずです。先々に大きな夢を仮置きしつつ、今できることや求められていることに集中すれば目標が鮮明になっていくのでは。そして挑戦してだめでも、切り替えができる身軽さも持っていたいですね。

Photograph:川本史織
Senior Writer:津島千佳