ファッション業界に憧れはあったけれど、明確な目標はなかった
ーーファッションに興味持ったきっかけから教えてください。
目黒 中学生の頃からファッション誌が好きで、non-noやCUTiE、Zipper、mini、Oliveなどを宿題の合間に読んでいたのがきっかけのように思います。山梨県という都会から離れた地域で生まれ育ったせいか、キラキラしたファッションに対する憧れが強かったんでしょう。街のスナップ企画も好きでその人がどうして素敵に見えるのか、当時の自分なりに研究しながら読んでいたように記憶しています。
ーー文化服装学院を卒業されたのは、アパレル業界が志望だったからでしょうか?
目黒 ずっとファッションに興味はあったものの、デザイナーになりたいといった具体的な目標はなくて。高校卒業を前に当時の担任との進学の相談の際に「ファッションに興味があるなら幅広く学べる文化服装学院のスタイリスト科はどう?」と勧められ、素直にスタイリスト科に進学しました。ファッションのことをトータルで幅広く学べるのは魅力でした。
――スタイリスト科卒業でありながら、スタイリストを目指さなかった理由を教えてください。
目黒 スタイリストにはなりたかったものの、一人暮らしでスタイリストアシスタントにつく覚悟ができなくて躊躇していました。他に明確な目標が見つからないまま卒業を迎え、その後半年くらいはいろんなアルバイトをすることに。私の迷走期です。そんな中、ルミネ新宿にオープンする【デミルクス ビームス】の1号店がオープニングスタッフを募集していて、アルバイトから入りました。今に至る大きなきっかけです。
信頼されるショップスタッフになりたい。この思いが現在の目黒スタイルの原型に
――当時から【デミルクス ビームス】は好きなレーベルだったんですか?
目黒 当時の私は【レイ ビームス】しか知りませんでした。面接の際「あ、新しいレーベルで【ビームス】の中でも大人に向けたきれいめな提案なんだ」と知りました(笑)。22歳で採用されてウェアかアクセサリーの販売のどちらかを担当することになって、洋服を選びました。長い目で見たら【デミルクス ビームス】の洋服は大人になっても着られるかなって。そこで洋服に進んだのが今につながっています。
――当時はどんなファッションをしていましたか?
目黒 20代前半ぐらいまでは古着MIXでした。当時は着たいものを着るのがモチベーションで【レイ ビームス】や古着を着たり、髪の毛もショートカットだったり、金髪やアッシュカラーにしたりなど今とは別人(笑)。オープン当時の【デミルクス ビームス】はできるだけ黒を着ての勤務だったので、じょじょに自分のファッションも変化しました。
ルミネ新宿という立地上、近隣で働くお客様が多く、仕事で着る洋服を探しに来られるんですね。そういった方を接客していると、カジュアルな格好よりモノトーンでシンプルなコーディネートの方がスムーズにやり取りができるって気づくんです。お店の特性としても、やっぱり落ち着いた色の服装をしているスタッフの方がお客様も安心されますし、お客様から信頼されている感じも伝わってきますし。そこからだんだんシンプルで、濃色のアイテムを身に着けるようになりました。そこにアクセサリーでモダンさを加えたりとか、シンプルだけどセレクトブランドのアイテムを加えながら、社会性のあるファッションを覚え始めました。
――その頃に今の目黒さんのスタイルが芽を出すんですね。
目黒 20代後半ぐらいから黒髪のまとめ髪を始めて、30代前半には現在のスタイルの原型ができて、30代後半で固まって、今に至る感じですね。
満足できるお買い物をしてもらうため、全身コーディネートを提案
――顧客と長くお付き合いをするため、接客の際に心がけていたことはありますか?
目黒 接客されるのが怖いって気持ちがある方もいらっしゃいますよね? 私もあります。そのような気持ちを減らしていただけるよう、初めてのお客様には洋服のご提案だけではないコミュニケーションを心がけ、またおしゃべりをしに来ていただけるような接客を意識していました。
あとはコーディネートの提案ですね。トップスをお探しのお客様に全身コーディネートをご紹介して、合わせたボトムスもお買い上げいただいたことがあったんです。コーディネートって悩まれる部分なので、こちらが提案するといいのかな、って。買っていただかなくてもいいんです。お客様がお求めのアイテムを1番素敵なコーディネートでご紹介したい。特にご要望をいいただかなくても、ご提案をしていました。
特に、大人の方は仕事や子育て、趣味やお家のことで日々忙しいはずなので、限られた中での買い物はとても貴重な時間だと思うんです。その中で目的を果たしていただくこと、お買い上げ後も困らないご提案やコミュニケーションを心がけていました。これは自分にとっては楽しく勉強になる時間でした。そんな機会がたくさんあり、自然にまたご依頼いただく機会がいつの間にか増えていたのかもしれません。
――そこまでしてくれる販売員は、あまりいないかもしれないですね。
目黒 いそうでいなかったのかもしれないですね。それと自分にもあることですけど、物欲が暴走して正気を失いながらお店に行くことってありません? 物欲の赴くまま買っていただくのではなく、後悔しないお買い物をしていただけるように促せるショップスタッフがお店にいるといいんじゃないかな、とは思っていました。だから似合わないものは、ちゃんと伝えていました。その代わり、商品の入荷をしっかり把握して、不足を補うご提案ができるよう、いつも用意していました。
後編では、プレス、ディレクターとステージは変わりながらも仕事において大事にし続けていることを中心にうかがいます。
※価格はすべて税込みです
Photograph:川本史織
Senior Writer:津島千佳