アメリカントラッドなら正統派ムードでアレンジ可能に
トラッドの原点はイギリスの紳士服にあるといわれます。正統派の紳士服が起源となりましたが、アメリカに伝わってアイビーやプレッピーといったアレンジが加わり、「アメリカントラッド」に至ります。目先のトレンドに踊らされないで、長く愛着を持って着続けたいと考える「タイムレス」の意識が広まって、伝統に裏打ちされたトラッドが再評価される流れが強まりました。
性別にとらわれない「ジェンダーレス」もメンズ由来のトラッドが人気を集めた理由の一つ。凜とした見た目に導いてもらえるトラッドが支持される背景になっているようです。「ブルックス ブラザーズ」の2024年春夏コレクションから今風トラッドのスタイリングポイントをご紹介します。
「マドラスチェック柄」で適度な華やぎ
トラッド系の柄で夏の風物詩的な存在といえるのが多色使いの「マドラスチェック柄」でしょう。イエローやグリーン、オレンジなどの明るい色を響き合わせたチェック柄です。
名前の由来はインド南東にある、綿花の産地だったマドラス地方。かつてはイギリスの植民地だったことから、イギリスに持ち込まれた装いです。トラッドの母国、イギリスの紳士服文化と、インド発祥の多色使いがクロスオーバーして生まれました。
パッチワークのようにマルチカラーが躍るので、カジュアルなシャツでも、華やぎがしっかり。ポジティブな彩りが加わります。チェック柄のスカートに、金ボタンのジャケットをコーデ。ストライプシャツと「柄×柄」のコンビネーションを組み上げました。
細かいプリーツのスカートがマドラス柄を引き立てて、チェック柄がうねるような動感を帯びました。トラッド風のコーディネートに、長め丈のスカートが程よいフェミニンを寄り添わせてくれます。
すっきりとした「チノパン」でクールハンサムに
略して「チノパン」と呼ばれるチノパンツ の「チノ」とは、厚手の綾織コットンという布地のことです。アメリカ軍が中国から調達した、軍服用の布地にちなんでいるので、語源は「China」です。
もともとミリタリー用だったので、色はカーキやベージュが一般的です。綾織特有の控えめなつやめきを帯びています。第2次世界大戦後にはアメリカの学生が好んで着るようになり、カジュアルパンツの代表格となりました。
こちらのチノパンはカプリパンツのようなすっきりシルエットの進化形です。しわになりにくい加工を施してあるので、ドレッシーにも着こなせます。家庭での洗濯でもほとんどアイロン掛けが不要な重宝さもうれしいところです。ストレッチ入りなので、着用感はストレスフリーです。
やわらかいシフォン生地で仕立てたブラウスを引き合わせて、フェミニン感を添えました。フラワープリントもやさしげムード。レッドのテーラードジャケットを羽織って、クールなハンサム感をプラス。パンツとのカラーコントラストを際立たせています。
「シアサッカージャケット」で涼やかさと好感度アップ
表面に細かい凹凸が施されているシアサッカー生地は「ブルックス ブラザーズ」のサマーシーズンの定番的な素材です。凹凸のおかげで、生地が肌に張り付かないから、爽快な着心地。蒸し暑い時期でも涼やかに過ごせます。
シアサッカー生地で仕立てたジャケットとバミューダショーツのセットアップは見た目の印象も軽やかで涼しげ。ブルー×アイボリーの響き合いが周りの温度まで下げてくれるよう。トラッド感を備えているので、好感度まで上がりそうです。
濃い色のシャツと組み合わせて、カラーコントラストを際立たせました。足元もヌーディーに整えて、一段と清涼感の高いコーディネートに仕上げています。
シアサッカーは表面に凹凸があるので、シワになりにくいのも長所です。ショートパンツとジャケットで大人のセットアップコーデに仕上がりました。街中のお出掛けだけでなく、夏旅行にも重宝します。
「Vネックカーディガン」でハズすのがアメトラ流
スーツライクな着映えにまとまるセットアップはトラッド感の高い着方です。でも、シャツで合わせてしまうと、お仕事ルック風に決まりすぎてしまいそう。Vネックのカーディガンを1枚で着れば、適度な「ずらし」が叶います。アメトラスタイルにもカーディガンは欠かせないツールです。
フランス産のリネン100%で編んだカーディガンはドライなタッチ。ほのかな透け感もあり、ロングシーズンにわたって着やすいカーデです。カーディガンを素肌に直接着て裾は片側だけをウエストイン。胸元のVネックが大人感を、ウエストのゆるいタックインがこなれた動きを印象付けています。
ジャケットとスカートとのカラーコントラストが生まれ、クールな雰囲気に整いました。Vネックカーディガンで適度にハズす着こなしのお手本的なスタイリングです。
「デニムスカート」で叶える気負わないトラッド
アイコニックなジャケットをオフしても、トラッド気分を宿したスタイリングは可能です。カジュアル服の代名詞的なデニムでも、「ブルックス ブラザーズ」のようなトラッド文化を受け継ぐブランドのアイテムなら、上手に着こなせます。
ストレッチ素材を用いたデニムスカートはコンパクトなシルエットが大人感を漂わせます。やや長めのミディ丈だから、品格をしっかりキープできます。ニットポロ風のトップスで合わせて、全体にスレンダーなシルエットを描き出しました。上からきらめくゴールドのイヤリング、ベルト、サンダルがアクセントになって、カジュアル感を帯びたトラッドに仕上がっています。
200年を超えるブランドヒストリー トラッドを現代的に着こなす
1818年にアメリカで創業した「ブルックス ブラザーズ」は200年を超える歴史を持つ老舗中の老舗です。アメリカンクラシックの代名詞的な存在で、アメリカでトラッドを根付かせたブランドと言えるでしょう。おしゃれで有名だったジョン・F・ケネディをはじめ、多くのアメリカ大統領に選ばれてきたことでも有名です。
単に伝統を守っているだけではなく、現代的なおしゃれの革新を重ねているのが「ブルックス ブラザーズ」の大きな魅力。クリエイティブ ディレクターのマイケル・バスティアン氏は2024年春夏シーズンに、マリンテイストやインディゴ、リネン、パッチワーク・マドラスなどのムードや色・柄、素材を取り入れています。
トラッドを着こなしの軸に据えると、たとえライトな着心地のアイテムでも、「きちんと感」や正統派イメージが備わり、ルーズに見えにくくなります。着るアイテム数が減り、素材も薄手になりやすいサマールックでも節度や大人感を保ちやすくなるから、この夏は人気復活のトラッドをスタイリングの味方につけるのがおすすめです。
ファッションジャーナリスト : 宮田理江