ジャケットのポケットは、500mlのペットボトルくらい入らないと
働く大人の女性も納得できる大きさのポケットを備える【マディソンブルー】の洋服。
「婦人服のポケットはずっと小さいって思っていました。それこそアパレルの世界に入る前から」
中山さんはポケットにこだわりを持ってデザインをされているはず、と感じていたからこそ、この返事をもらえた時に快哉を叫びたい気分でした。
どうして【マディソンブルー】の洋服のポケットは大きいのか。それは中山さんのスタイリスト時代の経験が大きく影響していました。
「当時食事をする時間もないくらい忙しい日は、作業しながら食べられるようにジャケットのポケットにペットボトルの水とバナナを入れていました(笑)。やっぱり仕事をしているとポケットは大きい方がいい。だから【マディソンブルー】の洋服はポケットにはこだわっています」
これまでハイブランドから流行のもの、ヴィンテージまで様々な洋服に接してきた中山さん。中山さんがポケットに関して一番衝撃を受けたのは、2000年頃に初めて日本上陸した【マルニ】だったそう。
「【マルニ】ってワンピースにも大きなポケットが付いていて、とにかくポケットが大きくて素晴らしいなって。やっぱり女性(当時のデザイナーはコンスエロ・カスティリオーニ)がデザインする洋服っていいなって思ったの」
その後、【セリーヌ】のクリエイティブ・ディレクターを務めたフィービー・ファイロのデザインも感動したとか。
「フィービーの作るボトムスって、ポケットが大きくて、まさに働く女性のためって感じで。ポケットが大きいだけでなく、ちょっと低めの位置に付けられていて、そこに手を突っ込むと格好がつく。計算されたデザインが素晴らしいなって」
女性がジャケットのポケットに手を入れるなら、正面ではなく脇
スタイリスト時代の経験や様々な洋服に袖を通したことから、中山さんは大いにポケットにこだわりながら【マディソンブルー】の洋服をデザインしていきます。
「【マディソンブルー】で最初にジャケットを作った時、手がしっかり入るサイズのポケットを、できるだけ脇に寄せてもらうようパタンナーさんにお願いしました」
ポケットはフロントに寄せないと美しいデザインにならない。当初、経験豊富なパタンナーから、中山さんのアイデアは否定されたそう。
「女性はジャケットの前ポケットに手を入れることって、ほとんどないでしょう? 私はポケットをデザインかつ機能的なパーツだと捉えているから活用してほしい。ポケットが脇にあった方が手はつっこみやすいし、つっこんだ時に格好いいんだよね。それにものを入れた時、ポケットが脇に付いていた方が膨らんでもかっこ悪く見えない。ポケットは実用性のあるパーツであり、スタイリングの一部だとも考えているから」
サイズや位置でヒップの見え方が変わってくるため、女性向けの洋服の中でも最もこだわってデザインされているであろうポケットがデニムのヒップ。高い位置に付いた大きめなポケットはヒップを小さく見せる視覚効果があるとされていますが、中山さんの考えは少し違います。
「ポケット位置を高めにすると、丸くて大きなお尻に見えるのが個人的にあんまり好きじゃなくて。男の人みたいな扁平に見えるお尻が好きだから、パンツの後ろポケットは低めにしています。低めのほうが使い勝手がいいし、手を入れてもかっこよくキマるので」
今はスカートのサイドポケットも、手を引っ掛けて格好がつく位置で提案しています。
「女性らしいアイテムの代表格だからか、大きなポケットが付いたスカートってまだ少ないけれど、ものを入れて膨らんでもいいし、むしろ私はそれが格好いいって思っちゃう。エレガントなスタイリングも素敵だけど、それよりも着ている人がタスクをこなそうとして、意識が前に向いている感じが好き」
リアルクローズに実用的なポケットは欠かせない
ポケットにこだわりを持ってデザインする中山さんに、どうして女性向けの洋服はポケットが大きくならないのか、尋ねました。
「正直、私にもわからないけど(笑)。そもそも昔は女性の服にポケットが重要ではなかったので、ポケットの大事さに気がついていないブランドもあるでしょうし、男性は手ぶら、女性はバッグを持つ、という長年の文化も関係しているでしょう。ポケットをつける工賃の問題もあるでしょうし。でも私は今のリアルクローズを提案したい。だからよほどじゃない限りポケットはつけていますし、今後もポケットは大きく、位置にもこだわっていきます」
機能性のみならず、女性の所作まで考え抜かれてデザインされている【マディソンブルー】の洋服。デザインはもとより機能性も兼ね備えたポケットには、デザイナーの意思も込められています。ずっと第一線で仕事をしてきた中山さんの経験が反映されているからこそ、使い勝手のいい、意味のあるポケットになるのでしょう。
※価格はすべて税込みです
Photograph:川本史織
Senior Writer:津島千佳