小柄な私だからできる接客方法がある!
販売員のアルバイト経験さえもなかった藤本さんが、大学時代に就職したいと強く志望したのがアパレル業界。洋服好きに加え、ファッションの世界への背中を押したのは、こんな背景もあったから。
「中学も高校も制服だったので、休日に友人と遊ぶとなると、私服のコーディネートに気合が入るタイプでした。自分を表現できる手段でもあるし、当時から小柄な方だったので、いかにバランスのいいスタイリングができるかも大事なポイントで。デニムの丈感に異常にこだわる中学生でした(笑)」
学生時代から【ドゥーズィエム クラス】に憧れていため、同ブランドを運営するベイクルーズ社に入社。1年目から希望どおり【ドゥーズィエム クラス】の販売スタッフに配属されます。
アパレルでの接客経験もなければ、商品知識も乏しい。しかも【ドゥーズィエム クラス】は目の肥えた熱心なファンが多いブランド。商品知識やスタイリングの勉強をしても、入社当時は説得力のある接客ができなかったこともあったそう。
それくらいでは腐らないのが藤本さん。背伸びをせず、知らないことは顧客に教えてもらうこともあったとか。この素直な姿勢がよかったのか、明るい性格のおかげか、可愛がられる存在になります。
同時に今後も長く働いていくうえで、強みになるものがほしいとも考え始めます。経験値の少なさを補い、自分らしい接客をするために思いついたのが、小柄を武器にすること。
「【ドゥーズィエム クラス】の洋服はわりと大きめなんですが、小柄なお客様も多くいらっしゃいます。ただ【ドゥーズィエム クラス】公式のスナップを参考にしたくても、着用スタッフは155cm以上で真似がしづらいとのお声をいただいたことがあって。その気持ちはよく理解できるので、ブランドが打ち出すコーディネートだとしても、スタイルよく見えるようにパンツを細いデザインに変えるなど、お客様の体型に合う提案を心がけていました。そうすると、ただ可愛いと勧めるよりも反応がよかったんです」
その結果、小柄なお客様の案内を任される機会が増えていきます。
Instagramに投稿するコーディネートはフィーリング
小柄を生かした接客の成功体験が、Instagramに繋がっていきます。2021年、社内でInstagramの個人アカウントを運営したいスタッフの募集があり、藤本さんも2021年4月に開設します(IDは@deu_de_mao)。
学生の頃から、スナップを見るのが大好きだったため、大好きな【ドゥーズィエム クラス】の洋服をスナップで紹介するアカウントにすることを決めます。
「あとは小柄に見えないコーディネートを定点で撮影すること、スナップ以外は投稿しないをルールにしたくらいです。更新はマチマチですが、1週間は空けないようにして、2〜3日に1回くらいのペースです」
定点撮影されたスナップがずらっと並ぶ画面は統一感があります。例えばトレンチコートを着たコーディネートを探したい場合、一覧になっているので目当ての写真に辿り着きやすいインデックス機能の高さも備えています。
スタイルがよく見えるうえ、藤本さんらしさを感じさせるスタイリングを参考にしているのは、お客様だけでなくスタッフにもいるそう。ブランド内でも認められた存在になっています。
12万人超ものフォロワーを抱えている今、その影響力は見逃せないものになっているはず。着用する洋服は会社から指定されているのかと思いきや、意外にもそうではないとか。
「会社からは自由に、と言われています。コーディネートもじっくり考えていなくて、出勤した時に着たい新作を中心にパッと組んでいます」
藤本さんの独自色が打ち出せているのは、この自由さがあってこそ。自主性を尊重されているから彼女の魅力が伝わり、ファンが増えているのでしょう。
従来の販売員にはない波及効果を生む藤本さんのInstagram
フォロワーが増えていく中、当初想定していた小柄な人以外に【ドゥーズィエム クラス】を知らない人、彼女のスタイリングを参考にしたい人などにも広がりを見せています。そしてフォロワーが10万人を超えたあたりからは、韓国や中国をはじめとする海外の人も増えてきたそう。
こんなにもたくさんのフォロワー数を抱えながらも、ほとんど実感したことがないと藤本さんは言います。
「福岡に出張した時、フォロワーのお客様が親しみを込めて話しかけてくださったことがあって。見てくださっている方がいるんだと嬉しくなりました。ただ普段働いている東京はシャイな方が多いのか、会計中に小声で『インスタ見てます』と言われることが多くて(笑)。でもそうして数字を意識しなくてすむのが、マイペースに続けられる理由の一つかもしれません」
実感は少なくとも、着実に波及効果が生まれています。
今や【ドゥーズィエム クラス】全店で小柄なお客様を接客する際は、藤本さんのInstagramが接客ツールとして活用される。彼女が着比べで紹介したダウンジャケットが他店舗で完売する。【ドゥーズィエム クラス】は日本国内にしか店舗がないのに、彼女のInstagramをきっかけに海外からのお客様が来店される。
これは従来の販売員の働き方ではあり得なかったこと。こうした積み重ねがあって、Instagramに向き合う姿勢にも少しずつ変化が生まれています。
「ブランドやスタッフに貢献できているのが、モチベーションになっています。いい接客ツールにするために、どう洋服を見せると伝わりやすいのか、考えるようになりました。お店がない地方の方に向け、素材感を紹介したい時は動画にして、オンラインストアで買おうかなって思っていただける後押しをしたり。こういう工夫も注目度が高まってきたからこそ、気づいたことです」
海外のお客様が【ドゥーズィエム クラス】の店舗に訪れるきっかけになりたい
【ドゥーズィエム クラス】の看板を背負うようになった今でも、プレッシャーを感じることはないと話す藤本さんはどこまでも朗らか。
「12万人に一斉にアピールできるようになったのはすごいこと。販売員としては大きな強みですが、Instagramはお客様とつながるツールの一つ。目の前のお客様お一人お一人を丁寧にご案内したい気持ちは変わっていません」
最後に今後の目標を尋ねると、藤本さんだからこその回答が。
「【ドゥーズィエム クラス】の魅力を、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです。私のInstagramをきっかけに韓国や中国からのお客様がいらっしゃいます。【ドゥーズィエム クラス】の商品は海外では買えないので、日本に旅行する際はお店に寄ってもらえるように、その糸口になれれば幸せです」
※価格はすべて税込みです
Photograph:細谷悠美
Senior Writer:津島千佳