「トラッド」とは?アイビーとプレッピーの違いは?
シンゾーンの今シーズンのテーマは「ABOUT TRAD」。トラッドやアイビー、プレッピーがベースです。さて、よく聞くこのトラッドやアイビー、プレッピーとはそもそもどんな意味でしょう。
トラッドは英語のtraditional(伝統的)を縮めた言葉です。どこの伝統かといえば、英国です。スリーピースのスーツに象徴される英国紳士の装いが原点です。ただ、現代のアイビー、プレッピーにつながるのは、アメリカでもう少しカジュアルに変化した「アメリカントラッド」のほうです。
「アイビー」はアメリカの大学生から
アイビーとプレッピーはアメリカの大学生から高校生の世代が広めた着方です。いろいろな見方や流儀があって、断定的に語りにくいのはファッションの常ですが、とても大まかに言えば、アイビーのほうがトラッド寄りで、プレッピーはやや崩したカジュアル寄りといった違いがあります。
アイビー(ivy)は植物の「ツタ」という意味で、ツタのからまる校舎をイメージさせる東部の私立大学8校の集まり「アイビーリーグ」に由来しています。有名なハーバード大学もその一つ。これらの大学に通う学生たちの装いがアイビーの始まりです。
「プレッピー」はアイビーより少し若めでカジュアル
一方、プレッピーは「プレパラトリースクール(preparatory school)」が語源です。アイビーを目指すような名門私立学校のことで、そこに通う学生たちの着こなしもこう呼ばれるようになりました。アイビーより少し若めでカジュアルなイメージです。
アイビーもプレッピーもトラッドに始まっているので、かなり似通っています。あまり区別して考える必要はないともいわれるほどです。ただ、テイスト面では微妙な違いがあります。ゆるい表現で言うと、アイビーのほうがより育ちの良さを示す優等生風。プレッピーはアイビーを着崩す感じです。
もともとメンズの装いだけに、ウィメンズとしてまとう場合には、細かい定義やルールまで気にするには及ばないでしょう。ざっくりと「アメリカの良家メンズユース風」ぐらいにとらえて、自分好みに取り入れるのがおすすめです。
さて、実際にアイビーやプレッピーで使うアイテムというと、ブレザー(ジャケット)、カーディガン、ボタンダウン・シャツ、チノパン、ショートパンツ、ローファーなどが挙げられます。学校の頭文字を縫い込んだレタードアイテムも有名です。ラガーシャツやバーシティージャケット(日本で言うスタジアムジャンパー)など、大学スポーツの人気を映してスポーツテイストが漂うのもいいところ。若々しいスクール感が持ち味です。
「デニムに合う上品なカジュアル」というコンセプトを掲げる「シンゾーン」はアイビーやプレッピーのスタイルをウィメンズで取り入れるのに向いています。現代のムードでブラッシュアップし、デニムとのミックスを提案しているのも、今の着こなしに生かしやすい理由。では、実際にコレクションルックを通して、着こなし方をつかんでいきましょう。
「シャツ」はボタンダウン 裾の出し入れで雰囲気自在
トラッドな装いのベースになるシャツはウィメンズでも着こなしやすいアイテムです。トラッドにまとうなら、ボタンダウンが候補になります。ハイネックに重ねれば、ソフトな着映えに。タックやセンタープレスを入れたパンツはトラッドっぽく見せてくれそう。パールネックレスでフェミニン感を添えるのもウィメンズならではのアレンジ。きちんと感を出すにはウエストインがおすすめです。
もう一段、カジュアルに着こなすなら、シャツ裾のウエストアウトがムードチェンジャーになります。ゆったりしたオーバーサイズのシャツは裾出しすれば、ジャケット風にまとえます。ジャケット抜きでもトラッドライクに見せやすいアレンジです。ニットベストをレイヤードして、ぬくもりやほっこり感を添えるのは、秋冬に使えるコーディネート。チノパンやスニーカーとのコンビネーションはデイリーな気分を印象付けます。
「ジレ」はトップスでマルチ着回し ネックレスと好相性
トラッドのキーピースはジャケットですが、もっと気軽に取り入れやすいのはジレ(ベスト)です。ダウンジャケットやロングコートなど、秋冬アウターとの相性を選ばないから、使い勝手が上々。前を開けて着れば、秋冬の微妙な温度調節にも重宝します。トップスを差し替えるだけで多彩なレイヤードを組み上げられるのは、ジレならではのメリット。シャツの代わりに、スウェットトップスをあわせたひねりのあるコーデがシンゾーン流です。
ジレの装いはボトムス選び次第でガラリとイメージが変わります。先のルックと同じタイプのスウェットトップスですが、こちらはミニスカートをチョイス。ボトムスを差し替えるだけで、こんなにフェミニン感がアップ。ヘリンボーン柄のジレが程よいトラッド風味を添えています。短めのパールネックレスを巻いて、ノーブルな風情をプラス。ジレとボトムスの新顔セットアップがスーツライクな正統派ムードを醸し出しました。
「ジャケット」はハイネックで穏やかに ミニや古着テイストを投入
トラッドの代名詞的なアイテムの正統派ジャケットはスリーピースでまとうと、少しかしこまった席にも着て行けます。普段使いで着るなら、トップスにニットを迎えて。ハイネックは縦長に見せる効果を発揮。ボトムスに同じ生地のパンツを選ぶと、スーツ風にまとまりすぎますが、ミニスカートであれば、ほのかにセンシュアル(官能的)なスクールガールっぽい今風トラッドに仕上がります。
エコフレンドリーでソーシャルグッド
シンゾーンは2001年に誕生したレディースのセレクトショップ。23年5月には東京・表参道に「Shinzone表参道本店」をオープンしました。内装のメイン資材に丸太を使い、廃棄デニムを使った別注コレクションを発売するなど、エコフレンドリーな取り組みが目立ちます。「ファッションとウェルフェア(福祉)の架け橋」を掲げ、子どもたちをサポート。環境にも地域社会にも貢献するソーシャルグッドなスタンスを示しています。
英国紳士服の伝統に基づくトラッドはハードルが高くみられがちですが、今のトレンドは着こなしルールをゆるめる方向だから、気負いは無用です。ジャケットやジレ、シャツなどのキーアイテムを「1点投入」すれば、手持ちワードローブとの意外な新感覚コーデが生まれるかも。この秋冬はトラッドを自分流にアレンジしてみませんか。
ファッションジャーナリスト 宮田理江