25周年だからこそ原点回帰の中に、モノトーンで新しい提案を
――25周年という節目を迎えながら、気負いを感じさせず、いつも通りの感じが
【ビームス ボーイ】らしいと感じました。
浅山 周年だから、と特別なことをするのではなく、大事にしているトラッド、アウトドア、ワーク、ミリタリー、スポーツといったカテゴリの原点を意識しています。周年のテーマは特別に設けず、2023年春夏シーズンはアウトドア、2023年秋冬シーズンはトラッドをメインとしたアイテム構成にしており、通常運行です(笑)。
――ディレクターに就任されて初めてのシーズンとなる2023年春夏は、いつもよりモノトーンのアイテムが多いように映りました。
浅山 自分の色を出そうと新しいことばかりに目を向けて、大切にしている部分がなくなってしまうと【ビームス ボーイ】じゃなくなる。ディレクターとしては、いかにその軸をぶらさずに展開していくか、というところに一番重きを置いています。
浅山 私のディレクターデビューシーズンもテイストは変えずに、でもお客さまに変わったと感じてもらえるディレクションをしたい。そう考えた時、思い浮かんだのが前任のディレクターが2019年秋冬シーズンで提案したネイビーのコレクションでした。
ネイビーという色を軸に三つボタンのジャケットだったり、アメリカンミリタリーのアイテムを表現したり。アメカジの基本の色であり、【ビームス ボーイ】にとって切り離せない色でもあり、コレクション全体がものすごく【ビームス ボーイ】らしかった。その色という切り口が個人的にすごく印象に残っていて。
浅山 今まで黒を軸にしたコレクションはありませんでしたが、アイテム一つ一つの背景を明確にし、なぜその商品なのか、という物語があればファンの方には受け入れていただけるのでは、と。結果、新しい切り口ですが【ビームス ボーイ】らしいコレクションになったと思います。
25周年記念別注アイテムは【オアスロウ】と【シエラデザインズ】などに依頼
――25周年を記念したアイテムも発売します。
浅山 20周年の際に別注で作った【レッドウィング】のブーツや【ショット】のライダースが強烈に記憶に残っているんですよ。レディスのブランドで、そんな男っぽいアイテムで勝負するのが【ビームス ボーイ】だし、おもしろいなって。25周年は私なりに【ビームスボーイ】らしさを追求できるブランドに別注を依頼しました。
【オアスロウ】はこれまでも何度もコラボレーションさせてもらっていて、今回は【ビームス ボーイ】の正装として、デニムのセットアップを別注しました。
浅山 【ビームス ボーイ】で長く愛されてきたオリジナルのブレザーとスラックスがベース。1日に40m程しか織れない【オアスロウ】オリジナルの貴重なデニム地で、糸番手や打ち込み本数、糸のムラ形状など1950年代のデニムを表現しています。ジャケットの裏地に施したパイピングとスラックスのカン止めは、【ビームス】カラーのオレンジで差し色になっているのもポイントです。
【シエラデザインズ】には型から製作したスペシャルな「半袖ダウンシャツ」を別注。キッズサイズを着ているようなコンパクトさなのに、肩の位置や袖口、ダウン量を細かく調整し、サイズ感にこだわり抜いています。
浅山 【シエラデザインズ】のディテールを踏襲しているので、機能性も抜群です。
――リニューアルして原宿店の面積も広くなりました。これから攻めていく気持ちの現れと受け取りました。
浅山 【ビームス】は複数のレーベルを展開する複合店が増えており、【ビームス ボーイ】だけの世界観を表現できるのは原宿店しかありません。旗艦店であると同時に【ビームス ボーイ】の聖地となるよう目指しています。
アメリカのファッションやライフスタイルを提案する店であることを視覚からも感じてほしくて、小屋のような壁やアンティークの什器を多用し、アメリカンな内装に。イベントスペースも用意し、こちらはクリーンな新しい表現をしています。
中学時代からの【ビームス ボーイ】好きが高じて【ビームス】に入社
――浅山さんは入社以来、販売員、バイヤー、ディレクターと【ビームス ボーイ】一筋です。
浅山 8歳上の姉が【ビームス ボーイ】がすごく好きで、中学生の頃から買い物に連れて行ってもらう中で、私もこの世界観に魅了されました。そもそも父が60〜70年代のアメカジを通ってきているんですよ。【レッドウィング】なら買ってあげるよ、みたいな父で(笑)。ゴリゴリにアメカジの父なので、そこの影響もあると思います。
――中学生時代の浅山さんにとって、印象的な【ビームス ボーイ】のアイテムは?
浅山 【ビームス ボーイ】のショッパーがほしくて、ほしくて。でも中学生にとって安い商品ではないので【ミネトンカ】の小さいキーホルダーとか靴下とか、小物を買ってレジで「大きい袋をください」って、すごく恥ずかしい思いをしながらお願いしていました(笑)。ただ、お客さまやスタッフと話をしていると、みなさんも私と同じようなエピソードを持っているんですよ。
――それだけ長くファンでいてくれているということですね。浅山さんはじめ、【ビームス ボーイ】には長年のファンが多い印象です。
浅山 そこは【ビームス ボーイ】の特長ですね。私よりも【ビームス ボーイ】と長く付き合ってくださっているお客さまも多く、「昔はこうだったよ」と教えてくださるなど、こちらが勉強させてもらっています。
――浅山さんをはじめ、お客さまやスタッフにとって【ビームス ボーイ】の魅力とは?
浅山 根幹が変わらないところです。特に女性のファッションは流行で移り変わりやすいもの。【ビームス ボーイ】も少しずつ変化はしていても、根っこにある「男の子みたいな女の子」という設立当初のコンセプトはずっと引き継がれています。背景に物語があるアイテムが好きで、流行り廃りに左右されず洋服を選びたい。そこに魅了されるとずっと夢中でいられます。
――2013年に【ビームス】に入社し、販売員、バイヤー、ディレクターと順調にキャリアを重ねています。入社当時から【ビームス ボーイ】ディレクターは目標でしたか?
浅山 【ビームス】に入社できたから【ビームス ボーイ】で働きたい。働くなら原宿の旗艦店がいいと、その都度目標を設定してました。2019年にバイヤーになったのは、店舗スタッフが買い付けに同行できるシステムがあって、自分も販売員時代に行かせてもらえたのがきっかけです。その時にレーベルの世界観を完成させていく過程を初めて見て、バイヤーになりたいって。
浅山 ただバイヤーになってすぐコロナ禍になり、外でいろんなものを見るのが仕事なのに、なかなかその経験ができなくて。【ビームス ボーイ】が大好きなのでディレクターとしてのプレッシャーもありますが、原宿店のリニューアルや25周年という節目に、立ち会えているのは改めて本当に幸せなことだな、と。こう店内を見渡すとやっぱり自分は【ビームス ボーイ】のDNAを受け継いできたし、変わらず好きだなぁって感じますね。
Y2Kブームだからといって、軸はぶらしたくない
――Y2Kブームでもあり、【ビームス ボーイ】がデビューした頃とトレンドが似ています。このタイミングだからこそ仕掛けたいことはありますか?
浅山 そこ、すごく難しいところなんです。Y2Kのメンズライクな着こなしって、ストリートというか、ちょっと尖った部分があります。【ビームス ボーイ】のベースはトラッドやアメカジなので少し違っているのかな、と。
――Y2Kは露出も多めで、ちょっとギャル要素がありますもんね。
浅山 そうなんですよ。だから逆に少し苦しいかもしれませんが、大事なのは軸をぶらさないこと。流行に流されるのではなく、守りに入るわけでもなく、今着たいと思えるサイズや着丈のバランスは重視しながら、【ビームス ボーイ】にしかできないトラッドを貫いていきます。
――【ビームス ボーイ】のディレクターとしての展望を教えてください。
浅山 これからも【ビームス ボーイ】らしくありたいですし、長くついてくださっているお客さまも大事にしたいですし、新しいお客様にも魅力をもっと伝えていきたい。
25年引き継がれてきた【ビームス ボーイ】を、自分がどうやって次につないでいくか。世界観を維持しながらつないでいけるかっていうところを一番に考えています。ただ突き詰めていくと、自分が中学生の頃【ビームス ボーイ】に夢中になった時の気持ちに立ち返ることになるんですよね。アイテムに込められた思いや背景がある洋服を着るとパワーがもらえるし、そんな洋服はずっと大事にしたくなりませんか? お客さまにもそういうふうに服選びをしていただきたいから、そんな力を持った洋服を提案できたら本望です。
「ビームス ボーイ 原宿」
住所/東京都渋谷区神宮前3-25-14 1F
電話番号/03-5770-5550
営業時間/11:00〜20:00
不定休
※価格はすべて税込みです
Photograph:細谷悠美
Senior Writer:津島千佳