地方とのプロジェクトに取り組むセレクトショップが増えています。その先鞭をつけた【BEAMS JAPAN】には、地方からの数多くの依頼が届いています。なぜ【BEAMS JAPAN】に相談したくなるのか。さらに新たに始めた農業にまつわるプロジェクトについても【BEAMS JAPAN】プロジェクトリーダーの佐野明政さんにお話をうかがいます。

名古屋はもっと魅力がある! 『大名古屋展』で伝えたい

地方とのプロジェクトの中で佐野さん個人の思い入れが強いのが、自身の地元である名古屋にまつわる『大名古屋展』。2019年、2021年と開催し、今後も継続して実施を計画しています。
「全国主要8都市の都市ブランドイメージ調査で、名古屋が最も魅力がないという結果が出ました。僕は名古屋の魅力をよく知っているから『それはないな』ってすごく思ったんですよ。東京一極集中と言われて久しいですが、大きな災害などで東京が倒れたら、日本もどうなるかわからない。それは怖いですし、もしもに備えて大阪や名古屋といった都市は経済的な面でももっとがんばらないといけないですよね。名古屋はリニアモーターカーが走れば、経済がまた一つ大きくなる期待もありますし、一緒に応援ができたらなと思っています」(佐野さん)

BEAMS JAPANが過去2度取り組んでいる『大名古屋展』

出典:BEAMS JAPAN

「可能性があるから光の当て方を変えれば、もっと輝くし、みんなが誇りに思える都市なのに」と佐野さん自身がジレンマを感じていたところ、名古屋グランパスエイトが地域を盛り上げるイベント『鯱の大祭典』をするため、ユニフォームをデザインしてほしいとの依頼が。

「【BEAMS JAPAN】でも、名古屋の魅力を伝えようと『大名古屋展』を企画しました。『鯱の大祭典』と連動させ、スポーツとファッションで地域を盛り上げる活動をしています」(佐野さん) 

2021年の『大名古屋展』では名古屋の伝統工芸で、日本遺産でもある有松絞りにもフィーチャー。佐野さん自身、少し古い印象があったと話す有松絞りに、こんな風にスポットを当てました。

鎧段絞りをイメージしたプリントを施したレプリカユニフォーム

出典:BEAMS JAPAN

「有松絞りを『鯱の大祭典』で選手が着用するユニフォームに採用できれば、伝統工芸に興味を持つ人が増えると思いました。名古屋グランパスエイト側も同じ気持ちを抱いていて、ユニフォームに有松絞りの柄の一つである鎧段絞りをイメージしたプリントをして、来場者全員に配ったレプリカユニフォームの裾には『日本遺産 有松』と入れました。レプリカユニフォームは、地域の人たちがすごく喜んでくれて。『大名古屋展』は、やりがいのあるプロジェクトです」(佐野さん)

モノにストーリーをのせて地場産業は売れないを変える

地方とのプロジェクトでは、店舗を使った地場産業などのプロモーションも行っています。
「兵庫県の姫路市やたつの市は、日本のタンナー(製革業者)の80%が集中している日本一の成牛革産地です。技術力も生産量もあるのに、知名度は低い。その一因が自治体ごとに独立して、各々でブランディングをしていたからでした。連帯できればもっと多くの人に知ってもらえる、知ってもらいたいと【BEAMS JAPAN】が『ひょうごレザー』として束ね、プロデュースしています。そこで開発した商品や製作した新ブランドロゴ、プロモーション動画を新宿の店舗内にあるイベントスペースで紹介しました。『ひょうごレザー』は2022年にスタートした
『Calling BEAMS CRAFTS IN THE MAKING』という新プロジェクトで商品展開の幅を広げつつあります。ゆくゆくは全国区の地場産業に成長させていきたいですね」(佐野さん)

『ひょうごレザー』のゴルフグッズ

出典:BEAMS JAPAN

地方との取り組みを続ける中で、ある課題に出合います。それは「いいものを作っても、売る場所がない」という生産者の叫び。PRがうまくいかないため、技術力は高いのに周知されていない地場産業などに光を当てていくのも【BEAMS JAPAN】の使命だと佐野さんは考えています。

「日本全体の課題かもしれないですが、日本はものづくりの国だったせいかプロモーションが上手ではありません。でも時代は変わって、いいモノを作るだけではいけない、伝えていかなければならないと、どの自治体も企業も認識していると思います。福井県にある7つ伝統工業を若い世代に伝える目的で『FUKUI TRAD』というプロジェクトをした時もそうです。技術はあるし、モノもいい。でも売れない。販売方法やプロモーションに問題があるのか。売れないと、次世代の担い手も現れないと感じました」(佐野さん)

【BEAMS JAPAN】が手掛けた『FUKUI TRAD』

出典:BEAMS JAPAN

「【ビームス】は小売業なので、モノにストーリーをつけて展開していくのが強みです。【BEAMS JAPAN】が関わることに、すごく期待してくださっています。一方でいきなり爆発的には売れないとはお断りを入れています。展開してみないとわからないし、続けないことには結果は出ませんから。でも売るためのアイデア出しは相手と一緒に一生懸命します。そうすると先方も心を開いてくれるので、様々な提案やブレストができます。地方のプロジェクトでは、そうして発想が広がるのが楽しいですし、強みも活かせていると思っています」(佐野さん)

【BEAMS JAPAN】プロジェクトリーダーの佐野明政さん

出典:BEAMS JAPAN

なぜ【BEAMS JAPAN】に多くの地方プロジェクトが集まってくるのか。それは佐野さんはじめ、スタッフの視点がフラットであることが大きいのではと考えます。

「社風かもしれませんが、ディレクターやバイヤーは相手をすごくリスペクトして取り組みます。わからないことは知ったかぶりしないで、わからないって言います。素直な態度だと先方も優しく教えてくださいますから。今も定期的にコラボレーションさせていただいている【ファミリア】さんと知り合えたのも『BEAMS EYE on KOBE』がきっかけ。積み重ねることでいい関係性になり、お付き合いが続くのはこちらとしてもすごく嬉しいです」(佐野さん)

食にもっと関心を持ってほしい。農林水産省と組んだ『たがやすBEAMS JAPAN』が始動

2022年1月からは農林水産省とタッグを組んで『たがやすBEAMS JAPAN』をスタート。これは【BEAMS JAPAN】から提案して始まったプロジェクトです。

『たがやすBEAMS JAPAN』記者発表の模様。(左から)農林水産副大臣 武部新さん、【SSZ】ディレクター加藤忠幸さん、株式会社ビームス代表取締役社長 設楽洋さん

出典:BEAMS JAPAN

「農林水産省が『ニッポンフードシフト』という、食を支える農業に関心を寄せようという活動をされています。農水省の方は食物がどこから来ているのかを知らず、食料へのありがたみがない人が増えていることを危惧されています。【ビームス】で【SSZ(エス エス ズィー)】というオリジナルのストリートブランドのディレクターをしながら、家業の農園で農業にも携わる加藤忠幸も同じ不安を抱えています。そこで【BEAMS JAPAN】も何か一緒できないかとご相談しました」(佐野さん)

『たがやすBEAMS JAPAN』は加藤さんがプロジェクト全体をディレクションし、農作業でも使えるファッションアイテムの企画・販売、野菜の栽培、野菜販売の3つを柱にした試みを行っています。

『たがやすBEAMS JAPAN』のために誕生したウェア

出典:BEAMS JAPAN

「農業と食に関心を持ってもらうきっかけとして、農作業にも使え、普段着としても着られるウェアを作りました。加藤の農作業をする時にこんなディテールがあると便利、という経験をデザインに反映しています。野菜の栽培は新宿店の屋上で店舗スタッフがしてみました。実際に作ってみたらありがたみがわかるかなぁ、と始めましたが、カラスに食べられるし、野菜を育てるのって本当に大変です。週末には新宿のお店で、加藤の農園を含め農家で育てた野菜を販売しました。【BEAMS JAPAN】には丁寧なライフスタイルを送るお客さまが多いので、こだわりの野菜も気に入って買ってくれます。農家の人たちは新しいお客さまとの接点が生まれるので、すごく喜んでくれました」(佐野さん)

新宿の店舗で行われた野菜の即売会

出典:BEAMS JAPAN

最後に今後【BEAMS JAPAN】で手掛けたいことを尋ねました。
「ありがたいことに、【BEAMS JAPAN】が誕生してから行政との取り組みが増えて、ネットワークができました。個人的には点であるそれらを一堂に会して『【BEAMS JAPAN】が紹介するニッポン』のような博覧会を展開できればいいですね。担当者になったら、めちゃくちゃ大変な企画ですけど(笑)」(佐野さん)

SeniorWriter:津島千佳