今、世界中でラボグロウンダイヤモンドが注目されている理由
天然ダイヤモンドは、約20億年前ともいわれる地中深くで、高温・高圧などの条件がそろった環境下で膨大な時間をかけて炭素が結晶化し、育まれます。宝飾用途のほかにも、ずば抜けた硬度・熱伝導・電気絶縁体など特殊な性質を持っているため、工業用途としても利用価値の高い、超人気の鉱物。しかし、その希少価値ゆえに世界中で高額取引されるため、さまざまな社会問題を引き起こす原因となっています。ラボグロウンダイヤモンドは、それを解決する糸口となる重要な存在なのです。
メリット①:天然ダイヤモンドとまったく同じ組成で、安定的に量産できる
ラボグロウンダイヤモンドは、高度な科学技術を駆使して、天然ダイヤモンド生成とまったく同じ地質環境をラボで再現し、同じ単一元素(炭素)から生成されます。生成にかかる時間を数時間〜数日と大幅に短縮しつつ、天然のような不純物を含まない、ピュアで美しい輝きを持つダイヤモンドを、一定のクォリティで量産することができます。
メリット②:地球にも人間にも優しいエシカルな生産プロセス
希少価値ゆえに世界中で高額取引される天然ダイヤモンドの生産は、人の手による採掘に頼っていますが、大量の土壌汚染・CO2排出・水の使用が必要なため、地球環境への負荷が大きく、生態系にも悪影響を及ぼしているといわれています。さらに、採掘地での強制労働や児童労働問題、さらに紛争地で採掘され密売されるいわゆる“紛争ダイヤモンド”などの深刻な人権侵害問題も多発。その点、研究所で作られるラボグロウンダイヤモンドは環境への負担が少なく、多くの製造メーカーが刻印を入れて出荷するため、“どこで・誰が・どんなプロセスで生産したのか”を正確に知ることができ、トレーサビリティ(追跡可能性)が確保されていて、透明性が極めて高いのです。
メリット③:天然同様なのにお手頃プライス
成分・組成は天然のダイヤモンドとまったく同質ですが、天然に比べて30~60%程度リーズナブルな価格で購入することができます。コストダウンしたり、予算をかけずにより大きなカラット数を選んだりと、選択肢の幅がグーーーンとアップ。また、生成時にさまざまな材料や手法を加えることで、ブルーやイエローなど、天然だとさらに希少価値が跳ね上がってしまうカラーダイヤモンドを安定供給する研究も進められています。(量産可能なことが“希少性のなさ”の裏返しであり、低価格化へと直結している面もありますが、ダイヤモンド同様のクォリティをより安く手にできることは、消費者にとってはよいことなのでは、と思います)。
ラボグロウンダイヤモンドを手がけるジュエリーブランド
ここでエディター沖島が展示会で見つけたラボグロウンダイヤモンドジュエリーを扱うブランドをご紹介。世界のラボグロウンダイヤモンドの市場規模はここ5年間で約700倍にも成長(※ダイヤモンド専門の市場調査を行うPaul Zimnisky Diamond Analytics調べ)しており、2022年以降もさまざまなブランドから新作ジュエリーが登場すると期待されていて、とても楽しみなのです。
『エネイ(ENEY)』
今年8月にデビューした『ENEY(エネイ)』は、“any + energy = ENEY”というブランド名が体現するとおり、最高品質のラボグロウンダイヤモンドを使ったコンテンポラリーなジュエリーで、自然界や人間のさまざまなエナジーが循環するさまを表現するブランド。オーガニック&ナチュラルビューティブランド『セルヴォーク(Celvoke)』などを手がける田上陽子さんがディレクションしており、石の大きさや美しさをモダンなデザインでダイレクトに楽しめるのが魅力です。
『プライマル(PRMAL)』
“エシカルで上質なジュエリーを身近にする”をコンセプトに掲げる『プライマル(PRMAL)』は、地球環境も労働環境も犠牲にしないラボグロウンダイヤモンドのみを使用。さらに、ダイヤモンド特有の複雑な中間マージンを極力省き、オンライン販売のみに特化することで徹底的にコストカットし、適正価格で展開しているブランドです。
また、日本一の宝飾産地である山梨県・甲府市の中でも30年以上の歴史を持つ、最も優れた製造業者と協力し、伝統的な技術を駆使して熟練の職人がひとつひとつていねいに手作り。自然環境や生産者の労働環境に向き合いながら、本質的でオープンなジュエリー製作に挑戦しています。
『ネクストダイヤモンドニューヨーク(Next Diamond New York)』
『ネクストダイヤモンドニューヨーク(Next Diamond New York)』は、ラボグロウンダイヤモンド先進国のアメリカ・NYでデザインされるブランドで、大粒ストーンを美しく見せるデザイン設計を得意としています。ラボグロウンダイヤモンドと、天然ダイヤモンドの2.5倍ともいわれる輝き・クリアな美しさ・優れた耐久性をもつ新しいジェムストーン“モアサナイト(MOISSNITE)”の2種類から選べる、1カラット以上の婚約指輪やアニバーサリージュエリーが人気です。
地球と人間に優しいジュエリーを選択肢に
以上、ラボグロウンダイヤモンドについてご紹介しました。膨大な時間を地中で過ごしてきた天然石だからこそ“地球からの贈り物”として強力なパワーを備えている一方、研究所育ちのラボグロウンダイヤモンドは確かに人造生成物でまっさら。“天然か人造か、どちらががいいのか!?”論争の真っ最中であるともいえますが、ファッションエディター歴17年めで、これまで雑誌やスタイリングのお仕事でさまざまなジュエリーやアクセサリーに触れてきたエディター沖島個人としては、“地球環境を破壊しない・人権侵害に加担しない・紛争を起こさない”という3つの観点から、ラボグロウン大歓迎です。
生成されるのに20億年も必要な天然ダイヤモンドの地球上の在庫には本当に限りがあるため、宝飾用途にしても工業用途にしても、本当に必要な人に届けられるべきだと思うからです。いち私人が装飾用に身につけて楽しむ分は、今後はラボグロウンに委ねてもよいのではないかと思っています。しかし価値観は人それぞれですから、それぞれの違いを正しく理解し、ニーズに合わせて選んでみてくださいね。
【脚注】※日本では、日本最大のジュエリー業界団体である「一般社団法人日本ジュエリー協会」が、天然のみ“ダイヤモンド”とし、それ以外は必ず“合成ダイヤモンド”と表記することを定めているため、ラボグロウンダイヤモンドを“合成ダイヤモンド”と表記するブランドやメーカーもあります。しかし、ラボグロウンダイヤモンドの開発元かつ先進国であるアメリカでは、合成・人造・人工・養殖といった表記を推奨していません。とくに“合成(Synthetic)”については、“2種以上の元素から化合物を作ること。また、簡単な化合物から複雑な化合物を作ること。(出典:小学館「大辞泉」)”という意味で、天然ダイヤモンドもラボグロウンダイヤモンドも、生成環境が異なるだけで、まったく同じ成分・組成の1種類の元素(炭素)でできていることにそぐわないためだと考えられているようです。
※掲載されている情報は2021年12月22日時点でのもので、個人の感想や私物が含まれます。最新の情報は各メーカー・ブランドの公式サイトや販売店頭にてご確認ください。
Senior Writer:Asami Okishima