奇跡の地下水が生んだ震災復興ニットの話

愛知からの引っ越しがすべての始まり

「このカミシヤニットください」――とあるデパートでFEILの先行発売をした時のワンシーン。お客がウールニットをカシミヤ製だと思い、言った言葉です。それくらいFEILのニットは、ウールがカシミヤのように、カシミヤは最高級ベビーカシミヤのようにグレードアップさせる、上質感を生み出します。

FEILは福島県双葉郡葛尾村にある、金泉ニットという会社のニット工場で作られます。金泉ニットは、日本のファッション関係者ではちょっと知られたニットファクトリー。世界のハイブランドのニット生産も請け負う企業です。もともと愛知県の企業ですが2018年、「震災復興支援の地に工場を作って貢献しよう」と一念発起。工場ごと完全移転しました。

そしてこの移転先に、FEILにつながる、奇遇なめぐり合わせが待っていました。

水がニットを変える⁉

ところで皆さんはニットのクオリティを決めるのは何だと思いますか？

ウールやカシミヤなどの糸が一番重要ですが、実はその次に大事なのは“水”と言われています。ウールなどの動物の毛でニットを編んでも、そのままではゴワゴワ・ガシガシした状態です。そこでニット工場では、水に独自の成分を配合した液体でニットを洗います。するとふっくらソフトなニット服になるのです。

ニット工場にとって、そんな大事な水。これが、FEIL誕生の奇跡に繋がりました。

実は葛尾村の金泉ニット工場の敷地内には湧き水がたくさん流れていて、社長は朝その水で顔を洗っていたとか。金泉ニットは、ファッションの世界では「風合いのニット」と言われ、独自の水と溶液で、繊細な風合いに仕上げる“洗いのセンス”が定評を得ています。
洗いにこだわる金泉ニットの社長。その湧き水で、試しにニットを洗ってみました。すると創業50年近い同社でも、今まで見たことがないような風合いのニット服が出来上がりました。

これまで金泉ニットが使ってきた溶液と全く同じ成分で、水だけ湧き水にして同じニットを洗う。すると今までと全く違う、金泉ニット史上でも最高クラスの風合いになったとのこと。

「この水を使って、最高のニットブランドを作ろう」――その思いで始まったのがFEILです。

偶然が生んだ奇跡の“ニット水”

なんでこの水良いんだろう？そう思った金泉ニットが調べてみると、工場敷地の湧き水は、地下130mから湧き出る天然水で、日本では珍しい超軟水。硬度26という数値でした。その独自の湧き水で作ると、これまで全くなかったFEILのニットに。水まですべて自社工場産という超ユニークなニットブランドです。

ちなみに、葛尾村はあのTOKIOのDASH村と同エリアで、震災復興に熱意を燃やす人が集まった場所です。金泉ニットもその思いで、この地に工場を作ると、“洗いの金泉”にもっとも大事な水が地下130mから湧き出て、独自のニットが作れるように。移転の前には湧き水のことは全く知らなかったそうです。どこか復興の神様が導いたようなストーリーでFEILが生まれました。

下請け工場が初のファッションブランド

この湧き水と出会い、下請け工場だった金泉ニットが初のオリジナルブランドとしてこの秋デビューするのが、FEILです。コレクションは、ニットのもっとも王道とも言うべき、ウェアたち。デザインを担当する同社デザイナーは、「削ぎ落したミニマルなニットウェア。素材と風合いの良さをもっとも表現したデザインを意識しています」とのこと。そのためデザインはあえてすべて無地で、長く着られる高品質ベーシックにこだわりました。

湧き水の力でカシミヤ並みに繊細なタッチを生み出すウールのガウン、ワンピース、セットアップでも着られるニットパンツ。さらには、同素材のプルオーバーセーターやカーディガン、Tシャツはオーガニックコットン製がずらり。シルク・カシミヤのセットアップ（リブニットトップスと同素材のスカート）は、最高のなめらかさを生み出しています。

そしてカシミヤの中でも最高峰と言われるイタリア・カリアッジ社製のカシミヤ素材を、金泉の湧き水で洗ったカシミヤのストールは、FEILの風合いをもっとも感じられる一品。

どれも、工場直送の商品なので、素材と作りからするとかなりリーズナブルに見えます。とあるアパレルデザイナーいわく「普通のアパレルブランドの同素材品よりも、半額くらいの値ごろ感では」という意見もあります。

8月からはそんなFEILのデビューコレクションを、公式オンラインショップで発売中。また、日本橋三越、横浜高島屋、東急百貨店本店などでも、秋のデビューコレクションのポップアップショップ開催が決定しています。

素敵な偶然と震災復興、日本のニットファクトリーの服作り。その出会いが生んだ、奇跡かもしれない風合いにタッチする絶好の機会かもしれません。