40代になると、それまで着ていたカジュアル服が似合わなくなる問題
流行っているものや着たいものを着れば、それなりにサマになっていた20〜30代。でも40代になると体型や肌質の変化で、それまで着ていた洋服が似合わなくなるのは、多くの女性が直面する問題でしょう。
それは伊藤さんもぶつかった壁。
「私も40代になって大好きだったグレーの裏毛スウェットや古着を着たら、なんかしっくりこなくなって。私自身、着るものに悩んだし、同世代の友人たちも同じような不満を抱えていました」(伊藤さん)
そんな時、アダストリアが大人の女性に向けたブランドを始動させる準備が始まります。立ち上げの理由は2つ。
成人人口の半分以上は40〜50代にも関わらず、アダストリアにはその世代に合うブランドがなく、そのマーケットに着手するのが急務であったこと。もう一つがアダストリアで長年働いている女性スタッフの存在でした。
「長年活躍している女性スタッフが40代になってヤングカジュアルブランドの店頭に立てるか、という問題もありました。スタッフと世代の異なる洋服だと、どうしても似合わなくなるギャップが生まれ、接客に説得力がなくなります。そんな長く在籍する優秀な社員がたくさんいて、彼女たちが40〜50代になっても活躍できる場を作らないといけないと思っていました」(伊藤さん)
40〜50代を迎える世代が引き続きアパレルで活躍できるブランドを作りたい、との考えに伊藤さんは強く共感。【エルーラ】はアパレル業界で25年ほどのキャリアを持つ伊藤さんを中心に、主にアダストリアで10〜20年勤務するスタッフで構成されています。
2019年10月にアダストリアの通販サイト「.st」でデビュー。2020年3月には最初の実店舗をオープンさせ、2021年3月時点で単独店が13店舗あります。
様々な大人女性のリアルな悩みをアイテムに反映
伊藤さんも感じていた、年齢を重ねると以前の洋服が似合わなくなるのは40代女性の多くに共通する悩みではあったものの、その種類は千差万別。
「現在は売り手から一方的に発信する時代ではありません。40〜50代が何に悩んで、何を求めていて、これからどうあるべきか。様々な女性からお話をうかがってコンセプトを固めていきました」(伊藤さん)
導き出された結果を「大人の女性の悩みに効く」とし、このコンセプトに則って企画しています。体型カバーをはじめ、顔まわりを明るく見せるツヤのある素材や明るい色を使った商品、やせて見えるスタイリング、顧客に共感できる同世代のショップスタッフによる接客を徹底。化粧品や薬のように、洋服にまつわる大人の女性の悩みに効くアイテムが揃うブランドであると周知させています。
一口に風邪といっても鼻風邪や喉風邪と症状は様々。そしてそれぞれに合った薬があります。そのように悩み別にアプローチしたのが今夏の新作「サマ見えTシャツ」。
「たかがTシャツ、されどTシャツ。20代では何気なく着ていましたが、40〜50代になると丈感やシルエットが気になります。体型をきれいにカバーするディテールやサイズ感は人それぞれなので、全9型を揃えました。素材にもこだわっています。下着が響かないよう、透け感を抑えたり、汗をかきやすくなる更年期の方に向けて汗じみ軽減の機能がつけたり、大人の女性の悩みに効く自信作です」(伊藤さん)
同シリーズの「サマ見えパンツ」も、多忙な大人の女性のライフスタイルに沿った提案をしています。
「見た目は布帛なのにカットソー素材のため、きれいなシルエットではき心地は楽ちん。座ったあともしわになりにくく、洗濯後のアイロンも不要。忙しい大人女子を煩わしさからも解放したかったんです」(伊藤さん)
トレンドは情報の一つとしては考慮するものの、デザインの軸はあくまで大人の悩みに効くかどうか。大人の女性を美しく見せない流行なら取り入れない、と決めています。
顧客に寄り添うことを重視し、2週に1度ほどのペースで行うインスタライブでは顧客からの意見を収集する貴重な場に。
「ただ商品を紹介するのではなく、視聴者に悩みなどの要望をうかがっています。インスタライブ上で洋服に対する意見を交換して、できるだけリアルな悩みを解消するアイテムを企画しています」(伊藤さん)
さらにスタイリスト、モデル、ライター、雑誌の編集部といった付き合いのある感度の高いリアルな大人からも情報を吸い上げてもいます。
長くアパレル業界で働いてもらうために【エルーラ】が受け皿に
若いブランドから【エルーラ】の店舗に移ってきたショップスタッフも、自身の年齢に近いブランドで働けるようになり、モチベーションも上がっているそう。
「【ローリーズファーム】で20年ほど働いていた40代スタッフは、年齢を重ねて担当ブランドの洋服が似合わなくなっていると自身でも実感していました。彼女たちにとって【エルーラ】は等身大の洋服だからしっくりきていますし、お客様の年齢も近いので接客もより親身になれます。若いブランドしかないと、ショップスタッフは将来が思い描きにくいですが、年齢を重ねても活躍できる場所があると言ってくれています。それがモチベーションにつながって、自発的にもっと成長したい、勉強したいと積極的なメンバーが多いですね」(伊藤さん)
美容師や保育士のように、仕事と家庭の両立ができず、せっかく資格や技術を持っていても結婚・妊娠を機に退職する人が多いのはアパレル業界も同様。【エルーラ】はママになっても、意欲があるスタッフの受け皿にもなりたいと伊藤さんは話します。
「弊社は30代で産休・育休を取るメンバーが多いんです。育休明けに戻ってくる時に【エルーラ】に配属されるようにして、ショップスタッフの半分くらいはママさん。まだ規模が小さいブランドとはいえ、ここまでママさんの割合が多いブランドはあまり多くないのではないでしょうか」(伊藤さん)
母になっても、その人の役割は母親だけではありません。年齢を言い訳にせず、チャレンジしたい気持ちを持ち続ける人もいます。
「私は未婚で子どもはいませんが、いろんな大人がいていいと思うんです。子どもを何人産んでもスタッフには戻ってきてほしいし、100人いたら100通りの働き方、生き方があります。それにいろんな人がいる方が楽しいじゃないですか」(伊藤さん)
経験を積んだスタッフが増えることで、新たな展開にも遭遇したそう。
「去年、期間限定ショップを出店した時、40代の店長が娘さんをバイトで採用したい、と。この世代あるあるだなぁって。アパレルは人手が足りない業界ですし、大学生の娘さんにとってもいい社会勉強になりますよね。年齢を重ねたことで生まれる変化を、ブランドにももっと生かしてもいきたいです」(伊藤さん)
最後に【エルーラ】の展望をうかがいました。
「まずは男女関係なく、【エルーラ】が大人の悩みに効くブランドと認知してもらうこと。これは構想段階ですが、40〜50代の男性向けの【エルーラ】のパートナーブランドをデビューさせること。普段スーツで働いていると、カジュアルがよくわからない男性って結構いらっしゃると思うんです。大人の男性のそんな悩みにも効く服を提案したいですね。究極、【エルーラ】は単なるアパレルブランドではなく、40〜50代のためのコミュニティにしたいんです。この世代の会話でよく出てくる健康や老後、親世代の介護。そういった悩みまで共有・共感するブランドになれればと考えています」(伊藤さん)
【エルーラ】公式オンラインストア
https://www.dot-st.com/elura/
Senior Writer:津島千佳